(43)解析㉑
お待たせしました。本日分の更新です。
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「まあ、そうですね」
コーヒーを入れながら、ディム・トゥーラは素直に認めた。
ディム・トゥーラは自動配膳の食事を受け取り、部屋の片隅で食事を始めた。
『食事をとるのかね?』
「規則正しい生活をしないと、ジェニ・ロウがデータを消去するそうです」
『ああ、究極の脅迫だ』
「目の前で実行されたので、ただの脅迫ではないことは思い知りました。さすがイーレの親友だ。確実に急所をついてくる。イーレの影響を受けたんですかね?」
『いや、それは我々の中で議論の源になっている。卵が先か、にわとりが先か』
「これまた究極の循環参照ですね。俺、あの技術が取得できるなら、ジェニ・ロウに弟子入りしようかな……」
『やめたまえ』
ウールヴェは尻尾を太くして、本気で怯えていた。
ディム・トゥーラは食事をする手をとめた。
「ロニオス」
『なんだろうか?』
「解析の結果はどうですか?」
『あまり、よろしくないな』
隠すことなく、ウールヴェは答えた。
『最終的な選択は、地軸のブレが少ない方を落とすことになるだろう』
「場所は?」
『まだ、結果はでていない。先に先行している破片の軌道が優先だろう。それがエトゥール王との決め事だ』
「エトゥール王は正確な日時を知りたがっています」
『もっともな希望だ。君が解析した結果の日時の早いものから彼に伝えていこう』
「民衆の避難には時間がかかりますものね」
ウールヴェは、つくづくとディム・トゥーラを眺めた。
『君はまだまだ青いなぁ』
「は?」
『ちょっと、メレ・エトゥールのところにいって学んできたまえ』
「は?」
『どうせ、数日は私のデータの再構築で暇になるだろう。結果が出ている先行落下の日時と座標を持って地上にいってくるといい』
「すみませんが、意図が読めません。何を学ぶと?」
『権謀術数という分野をだよ』
「それ、意味がわからないよ」
カイルもディム・トゥーラと同じ感想を言った。
カイル達は談話室に卓をいくつも繋ぎあわせ、巨大な作業机を構築していた。その上にあるのは、ディム・トゥーラがアナログ印刷した地形図が繋ぎ合わされて作られた、巨大な一枚の情報地図だった。
カイルは虎姿のウールヴェのために椅子を用意して、そこにあがることで、全体を見られるように配慮した。
情報地図には、升目上に線が引かれており、赤インクで国境やエトゥール内の地方領の境が記入されつつあった。
『この升目は緯度と経度か』
「そう、クトリが算出して、記入している」
卓の上に上がり込んで作業をしているクトリは、視線に気づきウールヴェに向かってVサインを出してきた。大災厄には非積極的だが、なんだかんだと作業に駆り出されていることを、彼はまだ気づいてないようだった。
「緯度と経度って、気象学では重要な情報なんだって」
『確かに。しかし、適材適所だな……クトリの降下もまるで定められていたようだ……』
「ディムもそう思う?」
『時々……な』
セオディア・メレ・エトゥールは、専属護衛に赤インクで国境を記入させていた。
リルとサイラスは街や村の名前を書き込んでいる。
『あれは?』
「他国の街や村の位置なんて、商人か間者しか知りえない情報だよ」
ディム・トゥーラは目の前で作成されつつある情報を注視し、考えこんだ。
『……初代達を連れてこい』
「はい?」
『ここに拠点情報を記入させる』
「それは僕も欲しいけど、エルネスト達が了承するかな?」
『先行した破片が拠点周辺に堕ちる可能性を危惧している――で、釣ってみろ』
「釣餌なんだ……」
『研究員ならそれで釣れる。500年ぐらいで研究馬鹿の本質が変わらないだろう』
ディム・トゥーラはなぜか勝利を確信しているようだった。
「釣られたな……」
初代代表で釣餌に引っかかったエルネストは諦めの吐息をついた。ウールヴェのトゥーラに半ば強制連行された彼は、談話室内の作業で全てを悟ったようだった。
「釣り主は君か」
『そう』
ディム・トゥーラは素直に認めた。
『拠点の位置を知りたい』
「ロニオスに聞け」
『ロニオスは教えてくれないし、入れないじゃないか』
「君も入れない」
『だから、カイル達が正確に知る必要がある』
「地上人を入れるつもりはないぞ」
『今はそれでいい。だが、最後までそう言える状況かこちらも自信はない』
「それをここで言っていいのかね?」
部屋のセオディア・メレ・エトゥールを初めとする地上人達が二人の会話を注視していた。




