(38)解析⑯
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ディム・トゥーラとアードゥル達が対立しなくて安堵したことは間違いないが、それを露骨に当事者達に表現する必要はなかった。
「落ちつけ、はしゃがないでくれ」
――なんで?今、嬉しいよね?
「僕だって、見栄を張りたい時がある。心情が相手にバレたくないんだ。お前が僕の喜怒哀楽を表現すると、僕の演技力と見栄が粉砕されてしまう。いつも毅然として、堂々としてほしい」
――難しいけど 頑張る
カイルとウールヴェの対話にエルネストは笑った。
「重要な話合いの場にウールヴェを連れていくのは、しばらく控えた方がいいな。駆け引きもへったくれもない。メレ・エトゥールにもう少しコツ教えてもらうといい」
「そうするよ。……長い話し合いだったね?何を話したの?」
「もちろん君のことだ」
予想通りの回答に、カイルはうっと詰まった。
「ぼ、僕の何を?」
「その規格外の能力とその取り扱い説明書だ。残念ながら取り扱い説明書はないと言われた。あちらはロニオスの取り扱い説明書を求めてきたな。それも残念ながら、ない」
対話の内容にカイルは納得した。ディム・トゥーラは癖のあるロニオスに苦労しているのかもしれない。
『相変わらずの詐欺師のような語りだな』
『嘘は言っていない。口下手な君に代わって説明しているが、君が担当してくれてもいい』
『まかせた』
「彼はなかなか優秀だな。だが、ロニオスで苦労しているようだ」
「そういえば、家出したい気分だ、とすぐにこちらの要請に応じてくれた」
「まだまだ話し合う内容が山積みだ。今後もここで対話するだろう」
「わかった」
不意にアードゥルが手を伸ばし、カイルの髪の毛をわしゃわしゃにして撫でた。
「も、もしもし?また、ロニオスのことで、同情されている?」
最近のアードゥルは、妙な癖をつけていた。東国で対立した人物と本当に同一人物だろうか、とカイルは思った。
「まあ、そうだ。……ところで、君の支援追跡者が待ちわびている」
「え?」
カイルが慌てて、花畑の方を見ると、ウールヴェの虎がややイラついたように待機していた。
「ちょ、ちょっと行ってくる。また、あとで!」
カイルは慌てて、遠く離れたウールヴェに向かって駆け出した。
それをエルネスト達は見送った。
「アードゥル」
「なんだ?」
「君は、今、わざとカイル・リードの頭を撫でただろう?」
「もちろんだ」
「何を遊んでいる?」
「ただの反応実験だ。支援追跡者の反応が昔のエルネストにそっくりだ」
「私に?」
「エレンに出会った頃、私がエレンに触れると、仔猫を守る母猫のようにいきりたっていたじゃないか」
「…………頼む、もう少し真っ当な表現にしてくれ……」
「適切な表現だと思うが、もう少し文学的表現を探そうか?」
二人は揃って、花畑のディム・トゥーラを振り返った。虎はアードゥルを睨んでいた。
「ほら、君にそっくりだ。まだ、信頼を得ていないから、私がカイルに危害を与えないか見張っていて、敏感になっている。支援追跡者は面白いな。そういえば、ロニオスも私に過保護な時期があった。なんでそうなるんだ?」
「ディム・トゥーラの場合、君がカイルを傷つけた前科持ちなことを考えれば、当然の反応だろう。むしろ対話に応じた心の広さにびっくりだ」
「なるほど。では昔の君の私に対する態度は?」
「エレンが周囲が見えなくなるほど、君にぞっこんになりそうな気配がしたから、君などカタパルトに乗せて宇宙の果てに射出したくなっただけだ」
「……母猫の態度の理由はそれか」
「……だからその表現はやめたまえ」
エルネストは顔をしかめた。
「だいたい君から、エレンを話題にするとはどういうことだ」
「私にもわからない」




