(35)解析⑬
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だが、カイルに関して、地上の初代達と連携が約束されるなら、こんな心強いことはなかった。
『カイルに関して、信頼していいんだな?』
「もちろん」
「息子は腹芸が下手だし、思考波長がロニオスに似ているから、思考が筒抜けだ。遮蔽が下手なのかと思ったが違うようだ」
ぼそりとアードゥルが言った。その意見にエルネストまでもが賛同した。
「そういえばそうだな。私もやや不思議に思っていたんだ」
『カイルの思考が読めると?』
「読めるというより、自然に拾うという状態の方が近い。私はロニオスの支援追跡を以前受けていた。彼等が親子だからかもしれない」
「その推論はやや弱くないか?」
「そうか?」
「私は、赤子のカイルを君があやしていたことに関係があると仮説をたてるが」
「そうならばジェニやエレンも影響を受けたはずだ」
『赤子のカイルをあやしていた?』
「彼がマメに世話をした、と言っただろう?保父の才能があると」
『あやすとは?』
「――」
「――」
「そこからか」
「いや、一般的な反応だ。私も500年前に同じ質問をした。赤子の世話など、育成ポットで無縁だし、ジェニもエレンも戸惑っていたことを記憶している」
アードゥルはディム・トゥーラの反応に理解を示した。アードゥルはウールヴェを見た。
「恐ろしいことに、地上には赤子用の育成ポットがないんだ」
『――』
その言葉に、ややディム・トゥーラは呆然とした。意味が理解できなかった。育成ポットなしにどうやって生育するんだ。
『……拠点に育成ポットぐらい……』
「あるわけなかろう。学術調査の場に、赤子がいることは想定しない。中央に帰還すればいいだけだ。コンピューターによる健康管理など出来ず、地上人は山羊の乳か母乳で赤子を育てる。そしてさらに恐ろしいことがある」
『……それは?』
「四六時中、赤子は泣くんだ」
『――』
「赤子の機嫌を取り、上手くなだめることを『あやす』と言う。赤子をあやすなど、我々の文化では死語に近い」
ディム・トゥーラはリルが泣きやまなかった大混乱を思い出した。対話が成立しない未成熟の赤子を泣きやますなど――。
『……地獄だ……』
「よくわかったな」
「母親は病床、世話する女性陣は睡眠不足で神経症、赤子はその不安を感じとってますます泣く。最悪の悪循環が生まれた。だが、ロニオスかアードゥルが遮蔽をすれば泣き止んだ」
「泣き止めば、なかなか素直だった」
「君は女性陣に感謝されていたな」
「君は逃げただろう」
「簡単に壊れそうで怖かったんだ」
「わからないでもない」
アードゥルは顔をしかめた。
「多分、ロニオスは、その時点で息子の潜在能力に気づいていたんだろう。中央への送還も理解できるが、何も死亡を偽装しなくてもいいだろう?」
「敵を騙すには、まず味方からを実践したんだ」
エルネストは肩をすくめた。
ディム・トゥーラは別のことを考えていた。アードゥルやロニオスが、制御できていない赤子のカイルの影響を受けた可能性はないだろうか?規格外に拍車がかかっている根源がカイルの可能性は?
『……地上の拠点にロニオスのデータはないだろうか?』
アードゥルとエルネストは視線をかわした。
「何を知りたい?」
『ロニオスの能力値を知りたい』
「観測ステーションにあるだろう」
『ロニオスにバレるじゃないか』
「つまり、ロニオスに内緒で知りたいと」
「別にいいが、問題は拠点がウールヴェを弾く点だな」
『なんだって?!』
「当たり前の防御だろう。貴族のスパイにもなるウールヴェが拠点に跳躍できたら、秘密も何もあったものではない」
「我々はウールヴェから隔離隠蔽する手段をとっている」
『理にかなっているが……困ったな。実体で降下しない限り無理か』




