(26)解析④
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
土曜日、日曜日は夜更新の予定です。(寝落ちしたら、翌朝)←開き直った!
『カイルが君の帰還を感知できるのに、どうして私がエドやエレンの帰還を感知できない、と思ったのかね?』
部屋が静まり返った。
ディム・トゥーラだけではなく、ロウ夫妻まで目の前のウールヴェを凝視していた。
「……君は私達が来ていることを察知していたのかい?」
『もちろんだ』
「……探索機を壊したのも?」
『私が壊したわけではない』
「通信阻害も?」
『それも私ではない』
「こちらが四苦八苦しているのを、君は酒をかっ食らって眺めていたのか?!」
『残念ながら酒はなかった』
否定する項目が微妙にずれていた。
「私がいるのがわかっていながら、なぜもっと早く連絡をよこさなかった?!」
『君は初手から間違っているよ。単純な救出目的の様相ではないのは明らかだったからね?初回探索を装った探索機の射出も、通常のプロジェクト並みの人員数も、事情を知らぬ者が多数いることはわかっていた。しかも我々が使用していた旧エリアを閉鎖していた。恒星間天体の落下記録を取りにきた観光客気分の研究員集団かと思ったから様子を見るのは当たり前だろう。それでなくても、世界の番人は箱庭扱いしたあげく、大災厄の放置に走る研究員達に腹を立てていたからね』
「エドを責めるのは、やめてちょうだい。彼は昔から放置派だし、私に協力してくれているのよ」
『彼は、昔から君にメロメロだった』
「知ってるわ」
ジェニ・ロウは、にっこりと余裕で応じた。
ディム・トゥーラは思わず上司を伺いみた。エドは複雑そうな顔をしていた。
「こちらを見ないでくれ。上司としての威厳が製粉器に突っ込まれて、空気清浄機が全力で回収中だ」
「そんな気がしました。俺も古狸と古狐の直接対決が見学できて、光栄です」
「君はどちらの味方なんだ」
「俺は中立で、カイル・リード派なのでお気になさらず」
エド・ロウはため息をついた。
「どこで、私の意図を汲み取ったんだ?」
『カイル・リードを信号弾として、使った時点で』
「信号弾?」
あまりの表現にディムは聞き咎めた。
「何でカイルが信号弾になるんです?」
『非常に目立つ信号弾だったよ。通信阻害もものともせず、地上に対して精神飛行し、同調能力を駆使する規格外――本当に君は腹立たしい古狸だ』
「ごめんなさい。カイル・リードの精神飛行は私がエディに提案したの」
ジェニ・ロウの懺悔にギョッとしたのは、ディムだった。
「なんで、貴女が――」
「事態が停滞して、大災厄まで時間が刻々と迫っていたからよ。カイルがいればロニオスは気づくもの」
「わけがわからない。カイルの探索に、遠方にいたはずの貴女が――」
『ジェニ、君には昔からかなわないな』
次にため息をついたのは、ウールヴェだった。
『君は見事に釣り師の才能を開花させているよ』
目の前で交わされる初代達の会話に、ディム・トゥーラの中で疑惑が生まれた。
その仮説は、様々な断片を優秀な接着剤のごとく、繋ぎ合わせて一枚の絵を完成させていった。
「……まさか」
「推論をどうぞ」
ジェニ・ロウはディム・トゥーラに発言権を優雅に与えた。
「……カイル・リードは、ロニオスの血族か?」
「惜しいっ!!」
ジェニが小さく賞賛した。
「あってるけど、もう一声っ!」
「あってる?血族は、生物学的な血縁関係の意味で、遺伝的にその能力は伝わり――」
ディム・トゥーラはそこで矛盾に気づいた。関係性が遠くて、規格外の能力を発現させるなら、世の中はカイル・リードだらけになる。
ディム・トゥーラは、目の前のウールヴェを凝視した。
「まさか、いや――」
ジェニ・ロウは解答をすぐによこした。
「そう、カイル・リードは、ロニオスの息子よ。規格外っぷりがそっくりでしょう?」




