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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第19章 大災厄(1)
686/1015

(18)模索⑱

お待たせしました。本日分の更新です。

お楽しみください。


ブックマークありがとうございました!

 その気になれば、ディム・トゥーラは自由に中央(セントラル)に帰還することができる。カイルやシルビアなどのように個人的理由による惑星救済の意思はない。

 全ては、カイル・リードがからむ支援追跡者(バックアップ)としての義務と矜持(きょうじ)、そのほかの同僚救済だけが残留の理由だからだ。

 地上組全員が撤退を選択すれば、躊躇(ちゅうちょ)なく観測ステーションから中央(セントラル)に帰還し、この惑星のことを過去のプロジェクトの一つとして記録するだけであろう。


 最近、ディム・トゥーラは、そのことに対する後ろめたさを(ぬぐ)うことができなくなっていた。


 地上の人々が滅亡することに対して薄情ではないだろうか?感情の神経細胞(シナプス)がどこか欠落しているのではないだろうか?AI(エーアイ)ですら、もっとまともな感情表現をするのではないだろうか?

 カイルは初代の冷酷さを嘆いているが、ある意味、自分も初代並みに冷淡とも言えた。その自覚がディム・トゥーラにはあった。


 熱心に救済のため、命をかけて奔走(ほんそう)するカイル・リードやシルビア・ラリム達との温度差は、いったいどこからくるのだろうか?ディム・トゥーラ自身がウールヴェを得てから彼等との感情の差異(さい)を気づき、理由を説明できないでいた。

 これがウールヴェがもたらした異変なら、後々影響は強くなってくるかもしれない、とディム・トゥーラは冷静に用心していた。


 

 この惑星は判断を狂わせる何かがある。



 そもそも、なぜ皆、こんな未開の惑星のレベルの低い文明に囚われるのだろうか?

 初代のロニオスや命を落としたエレン・アストライアーもそうだ。魅了(みりょう)され、人生を大きく変えている。

 カイル・リードやシルビア・ラリムは地上で伴侶を見つけ、それを後悔すら、していない。


 ディム・トゥーラも正常な判断をしているのか自信がなくなっていた。

 ウールヴェと同調し、彼らの使役主(しえきぬし)になってから、徐々に地上への関心が書き換えられているような気もした。それは同時に大きな懸念(けねん)を生み出していた。



 この惑星が滅亡する――最悪そうなった時、最初からエトゥールに感情移入しているカイルの精神状態はどうなるのだろうか?






 カイルは寝台で目を覚ました。

 見覚えのある天井が視界にはいり、そこが、アドリー辺境伯になってもエトゥールにまだ残っている自分の部屋であることを悟った。

 カイルの腕の中で、ファーレンシアは眠っていた。専属護衛達が精神的に不安定な二人を引き離すことをためらい、同じ寝台で休ませることを選択してくれたのだ。


 カイルはほっとした。

 少女の存在が現実世界を認識させる重要な役割を担っていた。ディム・トゥーラとファーレンシアがいなければ、自分は発狂していたかもしれない。

 

 確かに二人とも見た先見の光景に激しく動揺し、精神と体力を消耗していた。

 それほど滅亡の光景は残酷で、容赦ないものだった。カイルが以前、強制的に世界の番人に見せられた大災厄の映像の比ではなかった。


 全てが生々(なまなま)しすぎて、精神的負荷が大きかった。


 カイルは今はその光景を思い出さないように、遮断(しゃだん)した。そばにいるファーレンシアに投射(とうしゃ)するわけにはいかない。それから腕の中に眠るファーレンシアの身体を起こさないように優しく抱きしめた。


 彼女は精霊の姫巫女(ひめみこ)として、この過酷(かこく)な先見に一人で耐えていたのだ。

 その勇気は称賛に(あたい)するものだった。小さな身体で、ずっとこの重い精神負荷に耐えていたのだ。


――もう一人で重荷を背負わせない。僕が世界の番人の審神者(さにわ)になる


 カイルは強い決意とともに、癒しの眠りに再び落ちていった。


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