(10)模索⑩
お待たせしました。24時過ぎてしまいましたが、本日分の更新です。お楽しみください。
NHKの矢沢永吉生出演に悩殺され、完全に文章を打つ手がとまったことを懺悔いたします。
ブックマークありがとうございました!
ディム・トゥーラは、あらかじめ詳細に取り決めていたかのように、話を切り出した。あれだけ反発していた世界の番人に対して、個人の感情を封じ込め、接している。
その切り替えにカイルは感心してしまった。あの激情を抑え込んでいる。完璧な自己コントロールだった。支援追跡者の才が発揮されていた。
彼は観測ステーションの代表として、世界の番人との対話に臨んでいるのではないだろうか。カイルはそんなことを思った。
それに対して、世界の番人の応答はそっけなかった。
――――落ちる場所はまだ定まっていない
その態度にディム・トゥーラが激昂することもなかった。
『そうだと思った。俺たちが、どちらをつぶすか迷っている状態だ。正しい未来予測だ』
――――定まらぬ先見など無意味だろう
『実はそうでもない。こちらも不測の事態で少しでも情報が欲しい。こちらの予測解析が間に合わないリスクがあるからだ』
ディム・トゥーラは淡々と語った。
『星の破片が落ちる可能性の場所の先見があれば、そこから逆算して軌道を計算できる』
カイルは、はっと息をのんだ。
そんな発想はなかった。カイルが審神者になることを激怒したくせに、ディム・トゥーラは素早く、メリットとデメリットを判断して、必要な情報が何か想定していたのだ。
『それらの集中点が、天上の俺たちが軌道を変えるべき変更ポイントだ』
――――どの未来がみたいのだ?
『一番重要なのは、氷河期を回避することだ』
――――もちろんそうだろう
『次に人死が少ない未来が欲しい。大災厄に対して協力してくれるエトゥールの民を優先で救済したい。メレ・エトゥール、それでよろしいか』
「ああ、感謝する」
『これは等価交換だ。俺と初代は天上でどちらかの星を砕く。それに対しての先見の映像をカイルに見せろ。彼が絵を描き、地上の関係者が場所を特定する』
――――未来は変わる
『だから、それを繰り返す。最善の未来を探す。ただし、彼の安全を保証して、だ。彼が貴重な協力者であることを肝に命じることだ』
ディム・トゥーラは一気に威圧を放ち、聖堂の場を征した。
『カイル・リード達に何かあれば、天上の俺達はこの惑星から一切、手をひく。それを忘れるな』
「ディムっ!!」
カイルはその言葉に驚き、抗議をした。
『カイル、これはお前にも言っている。自分の安全を軽視するな。お前が死ねば、この惑星を救う義理など、俺には一切ない。俺はここから立ち去るだけだ』
ディム・トゥーラは冷酷に言い切った。
「そんな地上を見捨てるって言うの?!」
『そうなる』
――――姫以外にこの愚者を御することができる才を持つ者がいるとは驚きだ
世界の番人は、恐喝されるカイルになぜか満足そうだった。
「ちょっと!!」
――――お前は己の命を盾にこちらを利用した。飛去来器のようにそれが戻ってきただけだ
「飛去来器?」
『ブーメランのことだ』
ディム・トゥーラが特殊単語を翻訳し、カイル以外の全員が世界の番人の言葉に、ぷっと笑いをもらした。
カイルは真っ赤になって、世界の番人に文句を言った。
「どうして、僕にだけ厳しいの?まるでディム・トゥーラみたいだ」
――――一緒にするな
『一緒にするな』
同時に反応があった。
――――お前が頑固で、愚かで、野生のウールヴェ並に猪突猛進すぎて手をやいているだけだ
『上手い表現だ』
ディム・トゥーラが同意した。
世界の番人とディム・トゥーラが反発しているのか、意気投合しているのか、全くわからず、カイルは混乱した。




