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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第19章 大災厄(1)
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(6)模索⑥

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。

最近、更新時間が定まっておりません。

(夜更新を定着したいのですが……)

ブックマークありがとうございました!

 ディム・トゥーラは、ある意味品行方正な精神感応者(テレパシスト)で、カイルみたいに力を暴走させたことはない。それが珍しく、彼の怒りの思念の直射がカイルにきた。

 カイルは、自分が散々ディム・トゥーラに放っていた思念の直射の副産物の「頭痛」がいかなるものか、嫌と言うほど味わった。


阿呆(あほ)ってなんだよっ?!」


阿呆(あほ)阿呆(あほ)と言ってどこが悪いっ!!』


 ウールヴェは怒鳴った。


『お前は、世界の番人に囚われた時に、大量の情報を流し込まれて、発狂しかけたのを忘れたのかっ?!』


「………………あ……」


 カイルは見事に忘れていた。

 あの時、ディム・トゥーラが来なければ、危険だったことは確かだった。

 目の前のウールヴェから激怒のオーラが立ち昇っている。 


『あ、じゃないっ!そんな危険なことを許可できるか、このド阿呆(あほ)ぅ!!言語道断だっ!』


 カイルは一気に劣勢(れっせい)に立たされた。


「あ、い、いや、でも、ディム・トゥーラが支援追跡(バックアップ)してくれれば、あの時みたいに対話できるんじゃないかって――」


『〜〜っ!!』


 カイルの言い訳に、ぶちっと堪忍袋(かんにんぶくろ)()が切れた音をディム・トゥーラは自覚した。自分がいることで、カイルが危険な行為に走るのは、本末転倒(ほんまつてんとう)だった。こんなことのために同調の訓練をしたわけではなかった。


『……俺は帰る。しばらく来ない。海より深く反省しろ』


「ま、待ってっ!!」

「待ってください!!」


 がしっと、ウールヴェの首を()くように帰還の跳躍(ちょうやく)を静止したのはカイルではなく、ファーレンシアだった。カイルもディム・トゥーラもその行為に驚いた。


「帰らないでくださいませ!ディム様っ!」


『姫?!』


「ディム様が帰られてしまうと、カイル様が一人で世界の番人と交渉を始めてしまいます!危険です!」


 ディム・トゥーラは、ギョッとした。カイルの性格ならやりそうなことだった。


『…………姫、それは先見か?』


 こくこくとファーレンシアは、虎のウールヴェにしがみつきながら(うなず)いた。


「私では、止められません。帰らないでくださいませ。後生(ごしょう)ですからカイル様に同行してください。お願いします」


 少女は必死に嘆願(たんがん)した。


「ディム殿、世界の番人の審神者(さにわ)になる、ならないより、カイル殿の(そば)にいた方がよろしいのではないか?妹が言うなら、カイル殿が無茶をするのはありえることだし、地上の我々では、誰も彼を止められない」


 冷静な指摘をしたのは、メレ・エトゥールだった。


「世界の番人との対話が状況を変える可能性があったとしても、カイル殿を危険に(さら)すことは、我々も望まない。だが、カイル殿を止められるのも、妥協点を模索(もさく)できるのもディム殿の協力は必須と感じている。帰還の前に話合いはいかがかな?」


 メレ・エトゥールは、ウールヴェに(うなず)いて見せた。


「もちろん、話合いの中には説教も含まれる」

「ちょっと、メレ・エトゥール?!」

「そうですね。ディム・トゥーラ、私からもお願いします」

「シルビア?!」


 それまで沈黙を守っていたシルビアがカイルに向かって言った。


「初回の世界の番人の対話に巻き込まれた私としては、説教くらいでは(なま)ぬるいと思いますが、愚行(ぐこう)を見逃すわけにはいきません」


 説教を推奨(すいしょう)されてカイルは慌てたが、遅かった。


『確かにそうだな。話合いが必要だ。長い長い話合いが――』


 虎のウールヴェの背後に、怒れる灰色熊(グリズリー)のオーラが出現していた。






 ミナリオ達がさらに、カイルの描いた素描を運びこんできたとき、肝心(かんじん)な本人は聖堂の片隅で正座をし、白い虎の精霊獣を前に項垂(うなだ)れていた。

 異様な光景に専属護衛は、あっけにとられて、問いかけるようにメレ・エトゥールを見た。


「気にしなくていい。必要な(みそぎ)だ」

「いや、しかし――」

「ミナリオ、お前の胃炎を回避できる救世主として天上の賢者が降臨しているんだ。もっと喜ぶといい」

「胃炎を回避?」

「カイル殿の無茶ぶりを抑制(よくせい)する最上級の賢者だ。私が保証しよう」


 ミナリオは、メレ・エトゥールと聖堂の片隅にいるウールヴェを交互に見つめた。


「私は世界の番人に感謝するべきでしょうか?」

「好きにしていい」

「では、失礼して……」


 ミナリオは聖堂の床に膝をついて、感謝の祈りを(ささ)げ始めた。

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