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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第19章 大災厄(1)
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(3)模索③

お待たせしました。本日分の更新です。

お楽しみください。

「でもね、考えても見て。イーレがいて、愛弟子(まなでし)がいて、誰が押さえられるというの?イーレが突き進んで、愛弟子(まなでし)はイーレの味方、カイル・リードは規格外の能力で支援、医療従事者のシルビア・ラリムが怪我人(けがにん)の後始末――無敵チームに対抗したくないわ」

「――」


 ジェニ・ロウの想像はやけにリアルだった。


「しかも、惑星救出目的の観測ステーションまで壊されるって、悪手ではないかしら?」

「あ……いや……そうですけど……」

「最悪、恒星間天体を砕く手段も失われるのよ?」

「うっ……」

「未来予想はあらゆることを想定すべきね。人の行動予測より、まだ恒星間天体の方が素直で従順だわ」

「イーレ達が素直じゃないと?」

「いえ、あの子達は己の欲望に素直なのよ」


 これまた、きっぱりとジェニ・ロウは言い切った。つきあいの長さからイーレ達を理解しているとも言えた。

 ディム・トゥーラは、くらくらした。彼女と話しただけで、違う未来がはっきりと見えてくる。


「いったい、どうしたらいいんだ……」

「焦りすぎよ。まだ時間はある。それにね、彼らの人生は彼らに選択させるべきだと思うのよ」

達観(たっかん)しすぎです」

「そうかしら?貴方は人に強制される人生の選択を好むの?違うでしょ?」

「そうですが――」

「彼らの命を救いたい、それは理解できるけど、それは貴方のエゴではなくて?貴方が彼等の無事に安心したいだけと言えない?」

「!」

「でも、それで彼らが一生悔やむ選択をさせて、それで彼らは幸せかしら?」

「――」

「他者のため、と奔走するとき、そこに自己欲求(エゴ)は混ぜるべきではないのよ。人はよく、そこを()き違えるわ。他人のため、という口実の自己満足ってやつね」


 ディム・トゥーラは、そこに年月を費やした経験の差を感じた。素直に聞いてみた。


「俺は何をするべきですか?」

「カイル・リード達に状況を正確に伝える。本人達の意思を確認する。できれば、初代のメンバーとも接触(コンタクト)してほしいわ」

「アードゥルとエルネスト?」

「ええ」

「俺が会って意味があるんですか?」


 ジェニ・ロウは、にこりと微笑んだ。


「まあ……かまいませんが」

「ありがとう」

「あと、なぜカイルのクローン申請管轄が中央になっているのですか?」

「カイルの個人情報を見たわね?」

「はい」

「身内がいないこと、彼の能力が規格外であること、その遺伝子を悪用されないための予防処置よ」

「悪用?」

「モルモット用に複製(コピー)されるなんて、目もあてられないでしょ?カイルの遺伝子は特異なのよ」




 ジェニ・ロウが去ったあと、ディム・トゥーラは同調の準備に入った。画像データを何枚かアナログ手法で紙に印字する。

 それをウールヴェに持たせた。


「カイル――」


『ディム?』


 すぐに反応があった。


『どうしたの?さっき別れたばかりじゃない』


――ほんとにな

 わずか数時間で状況が激変したことに、ディム・トゥーラはため息をつきたくなった。


「状況変化が起こった。重大なことなので、会って話したい」


『――』


 思念に緊張が走った。


『どこへ行けばいい?』


「エトゥールの聖堂が、いい」


『わかった』


「可能なら、姫とメレ・エトゥールとシルビアも」


『――わかった』


 カイルは余計な質問をしなかった。メンバーを指定したことで、察するものがあるのだろう。


『すぐに移動するよ』


 カイルの行動は早かった。わずか15分後に、全員がエトゥールの聖堂に集合したという連絡がきた。


「場所はエトゥールの聖堂だ。行けるよな」


 ウールヴェは静かに頷いた。


――そろそろ、こいつに名前をつけてやらなければいけない


 そんなことを考えながら、ディム・トゥーラは同調を開始した。


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