(3)模索③
お待たせしました。本日分の更新です。
お楽しみください。
「でもね、考えても見て。イーレがいて、愛弟子がいて、誰が押さえられるというの?イーレが突き進んで、愛弟子はイーレの味方、カイル・リードは規格外の能力で支援、医療従事者のシルビア・ラリムが怪我人の後始末――無敵チームに対抗したくないわ」
「――」
ジェニ・ロウの想像はやけにリアルだった。
「しかも、惑星救出目的の観測ステーションまで壊されるって、悪手ではないかしら?」
「あ……いや……そうですけど……」
「最悪、恒星間天体を砕く手段も失われるのよ?」
「うっ……」
「未来予想はあらゆることを想定すべきね。人の行動予測より、まだ恒星間天体の方が素直で従順だわ」
「イーレ達が素直じゃないと?」
「いえ、あの子達は己の欲望に素直なのよ」
これまた、きっぱりとジェニ・ロウは言い切った。つきあいの長さからイーレ達を理解しているとも言えた。
ディム・トゥーラは、くらくらした。彼女と話しただけで、違う未来がはっきりと見えてくる。
「いったい、どうしたらいいんだ……」
「焦りすぎよ。まだ時間はある。それにね、彼らの人生は彼らに選択させるべきだと思うのよ」
「達観しすぎです」
「そうかしら?貴方は人に強制される人生の選択を好むの?違うでしょ?」
「そうですが――」
「彼らの命を救いたい、それは理解できるけど、それは貴方のエゴではなくて?貴方が彼等の無事に安心したいだけと言えない?」
「!」
「でも、それで彼らが一生悔やむ選択をさせて、それで彼らは幸せかしら?」
「――」
「他者のため、と奔走するとき、そこに自己欲求は混ぜるべきではないのよ。人はよく、そこを履き違えるわ。他人のため、という口実の自己満足ってやつね」
ディム・トゥーラは、そこに年月を費やした経験の差を感じた。素直に聞いてみた。
「俺は何をするべきですか?」
「カイル・リード達に状況を正確に伝える。本人達の意思を確認する。できれば、初代のメンバーとも接触してほしいわ」
「アードゥルとエルネスト?」
「ええ」
「俺が会って意味があるんですか?」
ジェニ・ロウは、にこりと微笑んだ。
「まあ……かまいませんが」
「ありがとう」
「あと、なぜカイルのクローン申請管轄が中央になっているのですか?」
「カイルの個人情報を見たわね?」
「はい」
「身内がいないこと、彼の能力が規格外であること、その遺伝子を悪用されないための予防処置よ」
「悪用?」
「モルモット用に複製されるなんて、目もあてられないでしょ?カイルの遺伝子は特異なのよ」
ジェニ・ロウが去ったあと、ディム・トゥーラは同調の準備に入った。画像データを何枚かアナログ手法で紙に印字する。
それをウールヴェに持たせた。
「カイル――」
『ディム?』
すぐに反応があった。
『どうしたの?さっき別れたばかりじゃない』
――ほんとにな
わずか数時間で状況が激変したことに、ディム・トゥーラはため息をつきたくなった。
「状況変化が起こった。重大なことなので、会って話したい」
『――』
思念に緊張が走った。
『どこへ行けばいい?』
「エトゥールの聖堂が、いい」
『わかった』
「可能なら、姫とメレ・エトゥールとシルビアも」
『――わかった』
カイルは余計な質問をしなかった。メンバーを指定したことで、察するものがあるのだろう。
『すぐに移動するよ』
カイルの行動は早かった。わずか15分後に、全員がエトゥールの聖堂に集合したという連絡がきた。
「場所はエトゥールの聖堂だ。行けるよな」
ウールヴェは静かに頷いた。
――そろそろ、こいつに名前をつけてやらなければいけない
そんなことを考えながら、ディム・トゥーラは同調を開始した。




