(6)晩餐会①
晩餐会の当日の朝、カイルは侍女達の強襲を受けた。浴室に拉致られ、裸にされ、エトゥールに来て以来の二度目のセクシャル・ハラスメントを経験した。
カイルは早々に抵抗を放棄した。エトゥールの妹姫にふさわしいエスコート役に、彼を磨きあげる決意した侍女達に逆らうことは無謀で命知らずである、と悟ったのだ。
少し癖のある髪を念入りにとかされ、整えられたときはすでに無我の境地だった。
いつもの観測ステーションの研究員服に長衣という軽装が許されるわけもなく、新しくあつらえた白を基調としたシャツと上着とズボンが与えられた。布の質感からかなりの高級品であることには間違いない。さらに新調された薄いブルーの長衣を渡される。
結局、午前中いっぱい身支度に費やされた。
カイルは研究員服を脱いで無防備になることが落ち着かなく、いくつかの装備を侍女達の目を盗み、長衣の衣嚢に忍ばせた。これぐらいの持ち込みは、許されていいはずだった。
支度の終わったカイルをミナリオが迎えにきた。
専属護衛のミナリオも軍服基調の正装に着替えており、彼は長衣のかわりにマントを羽織っている。
「晩餐会は夜なのに、なぜこんなに早くから準備するのかな?」
素朴な疑問に、ミナリオは、え?という顔をした。
「午後から、メレ・エトゥールの謁見に同席ですよ」
全然、聞かされてない予定だった。
セオディア・メレ・エトゥールは、すでに身支度を終えており、黒を基調とした軍服の正装は彼の長身に似合っていた。これは女性がほっておかないだろう。初対面の時も絵になると思ったが、今はそれ以上だった。
「謁見に同席なんて、全然、きいてないんだけど……」
「おや、言わなかったかな?」
しれっと答えるエトゥール王が確信犯であることをカイルは断定した。
「同席って何をすればいいのかな?」
「私の横に立って、謁見するものの顔と名前を一致させてくれればよい」
晩餐会の予習の機会を与えてくれたのか、とカイルは一瞬思ったが、メレ・エトゥールがそんな裏がないことをするだろうか。
「今後の政策に関する話題も出るからな。カイル殿もきいてもらった方がいいだろう」
やはりか。
晩餐会が終わっても執務を手伝うと思われているようだ。カイルは首をふった。
「手伝いは期間限定と言ったはずだけど?」
「おや、禁書が読みたいのかと思ったが、違ったのか」
「――!!!」
カイルは情報提供者でしかありえないミナリオを振り返ったが、専属護衛である彼はさっと視線をあさっての方向にそらし、頬をぽりぽりとかいていた。
腹黒領主は禁書を釣り餌にする気満々だった。この時点で、晩餐会終了後の手伝い要員が確定してしまった。禁書は確かに読んで見たかった。
「それより晩餐会の流れは頭に入っているか?」
「貴方とシルビアの後に、ファーレンシアをエスコートして入場」
「それから?」
「晩餐会のあとは、ファーレンシアをエスコートして隣室の舞踏会場に移動」
カイルは指をおりつつ自分の行動すべき流れを誦じた。
「1曲目はファーレンシアと踊って、小休憩。2曲目はシルビアと踊ってしばらく歓談の時間。3曲目はまたファーレンシアと踊って、夜会終了って聞いたけど」
「よろしい。3曲目は絶対にファーレンシアを誘うように」
「伝統なんだっけ?」
「そうだ」
「僕は相手に困るから大歓迎だけど、ファーレンシアはそれでいいのかなあ。彼女に無理を押しつけてない?」
「――」
メレ・エトゥールはなんとも言えない表情でカイルを見つめていた。
「カイル殿、その無自覚の悪癖は絶対に直した方がいい」
「え?」
「絶対にだ」
カイルには意味がよくわからなかった。




