(1)模索①
お待たせしました。
新章開始になります。お楽しみください。
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直径25キロ程度の恒星間天体が二つの塊に分かれていた。分裂の衝撃の痕跡を残すかのように、大小様々な岩石が破片となって、本体の周辺を回転しながら浮遊している。
細かい塵も加えれば無数になっているだろう。
『なぜ二つに割れて形状が変化したかは今のところ不明だ。おそらく質量があるものと衝突した可能性がある。小惑星か彗星の類だろう』
ロニオスが思念端末を器用に使いこなして、スクリーンを複数展開しつつ説明をする。まるで公的な学術会議の発表のようだった。
確かに宇宙物理学の研究者が飛びつきそうなネタではあった。
だがディム・トゥーラには彼が何を問題視しているのか、いまいちピンとこなかった。
「あの巨大な恒星間天体が分割したんですよね?」
ディムは質問を投げた。
「何が問題になりますか?二分割にするための膨大なエネルギーが節約できたと考えることはできないのですか?」
『節約以上に、やっかいな問題が生じている』
「どんな?もしかして軌道がずれたかも?」
ディム・トゥーラは言った。あの惑星さえ回避してくれれば、もう災厄について悩むことはないのだ。
『残念ながら二つとも綺麗に惑星を目指している。まずは仮に大物の二つに割れた恒星間天体をαとβと名付けるとしようか。我々の旧エリアの爆弾は一つしかない、どちらかしか破壊と軌道変更ができない』
「――」
『仮にどちらかが元の軌道で堕ちたらそこで、試合終了だ。地軸はぶれ、氷河期は避けられない。地上の物質文明が滅びる。それを確認するために我々はこの新たな形状による軌道計算を余儀なくされる。ジェニ――』
「わかっているわ。使える量子コンピューターをかき集めろというのね」
『回線の強化も。膨大な計算になる』
「ええ、そうだろうと思った」
『エド、観測組に何人割ける?』
「分野によっては、よだれのでる研究素材だからなぁ。今、いる観測組に加えて参加する物好きはいるだろう。ただ観測用の無人シャトルはもう少し必要だ」
「私が手配するわ」
『どこで分裂したか、観測記録をさかのぼってくれ』
「連中にやらせよう」
『ディム』
ディム・トゥーラは呆然としていた。
少し前までは、地上で彼等と馬鹿な会話をしていた。
まだしばらくは、大災厄まで時間があるはずと思っていた。
ある程度、計画が成立し、ただ単純に準備をすればいいだけだった。
それを全部、ひっくり返されたことを彼はようやく理解した。
『ディム』
ディム・トゥーラは、はっとした。
「……はい」
『君にはやっかいなことを頼む』
やっかいなこと――それが何であるかは明白だった。
「地上の連中への説明……ですね?」
『そうだ』
「どこまで説明すればいいんですか?」
『包み隠さず全て。状況を正確に伝える方が動揺と不信感は少なくてすむ』
「不信感?」
『王都以外に被害が出る可能性だ。かなり高いだろう』
「――」
『これによって当初より地上組の生存率がかなり低下している。王都一箇所の被害から、どこに落ちるか現時点で未知数だ』
「それは――」
『避難の拠点として構築しているアドリー――国境の城塞都市が無事の保証もない』
アドリーは、カイルがファーレンシア姫と婚約することで得た辺境の地だと記憶していた。
「いったいどうしたら……」
動揺を隠せないディム・トゥーラに彼のウールヴェが寄り添った。ウールヴェが使役主を気遣っていた。
『ディム・トゥーラ』
リードは静かに呼びかけた。
『君の動揺は理解できる。私もそうだ』
「貴方は冷静沈着だ」
『それは、はったりに近い。私が狼狽えて、周囲にいい影響が出るかね?』
「隠していると?」
『もちろんだとも。ディム・トゥーラ、君の望むことはなんだ?』
「地上に降下した連中の安全――そして願わくば、知己を得た地上人の生存です」
それは、迷わずに言えた。
『では、それを目指したまえ』
「どうやって?!」
ディム・トゥーラは叫んだ。
ただでさえ、恒星間天体の落下という悲劇があり、たった今、事態は最悪の方向に突きすすんだ。
上書きされた未来は絶望しかない。
『それは違う』
ディム・トゥーラの思念を読み取ったリードが即座に否定した。
『どんな時でも、道は残されている』




