(43)閑話:散歩に行こう①
お待たせしました。
それでは、恒例の閑話に行きます。
本編のエピローグは、「ちょっぴり」凶悪な状態で終わっているのは気のせいです。
今回の閑話は、エピローグ前あたりに、カイルと虎くんが動物観察の散歩をするほのぼの仕様です。(多分)
しばらく夜の更新予定です。
ハーレイの村では、白い狼に似た精霊獣を連れている金髪のエトゥール人の青年はすっかり馴染みになっていた。若長の妻であるイーレの同郷人ということもあって、村の出入りを自由に許されている。
他のエトゥール人と違って、言葉をしゃべることができるエトゥールの賢者達は好意的に迎えられていた。
だが、その日はいつもと違った。
エトゥールの賢者は、いつもの狼の精霊獣とともに、白い虎の精霊獣を連れて訪問してきたのだ。
西の民達は、あっけにとられた。
大型の肉食獣である虎が、全身が白く文様も薄い青だった。その瞳は茶色で鋭く、獲物を一撃で狩るような迫力があった。尻尾は複数あり、間違いなく精霊獣だった。
世界の番人の御使いを一匹だけではなく二匹も従えている。それは、西の民にとって、氏族の長にも等しい印だった。
ハーレイの村は大騒ぎになった。
すぐに若長夫妻が呼び出された。
「もう少し、先ぶれというものをよこしてくれてもいいじゃないか」
カイルと精霊獣の二匹は、すぐにハーレイの屋敷に引きずり込まれた。
いつもはカイルの行動を受け入れてくれるハーレイも、渋い顔で騒動の主達を見つめて、静かな抗議を述べた。
思わぬ大騒動への発展に、カイルは恐縮していた。
「ごめんなさい」
「ディム・トゥーラ、貴方がいながらどういうこと?」
『すまない、地上の文化については全くの無知状態だ。正直、何が騒動の原因なのか、よくわかっていない』
「ああ、そうね……。私達も報告ではそこらへんを端折っていたわ。これは私たちが――いえ、カイルが悪いわね」
「はい、全て僕が悪いです」
神妙にカイルは正座している。
ハーレイはあらためて白い虎に向き直って、胡坐をかいたまま、西の民流の最上級の礼の作法で頭を下げた。
「お初にお目にかかる。天上の賢者よ」
白い虎はやや困ったような表情を浮かべた。
『俺はイーレの部下であって、特にそれほど高い地位にいるわけではない』
「そうなのか?」
ハーレイはイーレの方をみて、尋ねた。
「ええ、確かに部下だわ」
「……イーレのもとにいるとは、さぞ大変なことだろう」
「……ハーレイ、それはどういう意味かしら?」
「そのまんまの意味だが?俺と同じ苦労をしているのだろう?」
3人の視線が、虎姿の精霊獣に集中した。
『……俺も命が惜しいから、黙秘を要求する』
「それ、思いっきり肯定しているよね?」
『お前は否定できるのか?』
カイルも黙り込んだ。
イーレは二人の非礼に半眼になった。
「……二人とも肯定しているわね?」
「イーレ、少し若い連中の気持ちにそってだな――」
「気持ちに沿って、鍛えなおせってことかしら?」
イーレの笑顔に怯むカイルと虎の精霊獣に、ハーレイが声をかけた。
「大丈夫だ。西の地にいる限り、俺がイーレを抑え込む」
新妻の暴走を食い止める約束に、カイル達はほっとした。
イーレとハーレイは、カイル達が望んだ森の案内を引き受けてくれた。
「それで何がみたいと?」
『動物ならなんでも、森特有の固有種がいれば、それを優先的に』
「何をするの?」
「ディムは大災厄前に、種の保存をしたいそうだよ」
「種の保存?」
「それをすると、どうなるんだ?」
ハーレイが質問を投げた。
『大災厄後に、優先的にその動物を再生ができる』
慌てて、カイルが解説を加えた。
「ええっと、大災厄の後は、気候が変動して動植物にとって過酷な環境に変わるリスクが大きい。大半が絶滅することも考えられる。家畜や狩猟の獲物を保護するために、標本採取したいんだ」
「さんぷる?」
「私たちの世界の技術で、動物の血液から、その生物を作ることができるの」
「――」
ハーレイは眉をひそめた。
「血から?」
「肉でもいいわ」
『肉より血液の方がいい』
「狩りの獲物が欲しいのか?」
『殺す必要はない。気絶させて血液を採取するだけだ』
「それはそれで、難儀だな」
ハーレイは考え込んだ。
続きます。




