(41)幼体㉒
お待たせしました。金曜日分の更新になります。
お楽しみください。
夜更新にしたとたん、更新時間が平気で真夜中になりました(反省)(ごめんなさい)
でも、まだ夜更新続きます。(多分)
どの口がそれを言うか――サイラスを除いた全員が心の中で、一致して突っ込んだ。
「……今、過保護じゃないと言った?」
「過保護じゃない」
「えっと、過保護の定義を知っている?過保護というのは、対象を過剰に保護をすることで、必要過多の保護はこどもの養育上、よろしくないという定説が――」
「過剰じゃない。適切な保護だ」
カイルはサイラスの顔をじっと見つめた。
サイラスは己の行動を本気でそう思っていた。
『……僕、これを適切な標準まで矯正できる自信ないや。棄権していい?』
『わかった。選手交代だな』
白い虎姿のウールヴェは、サイラスに近づいた。
『サイラス、リルに対しての過剰な保護欲が標準だと思う根拠はなんだ?』
「リルは、イーレに比べてはるかに、か弱いじゃないか。何かあったらすぐに死んでしまう。それの比較結果だ」
『――』
ディム・トゥーラは一瞬言葉を失った。
『……もしかして、イーレを基準にしているのか?』
「イーレ以外の誰を基準にしろと?」
『だがイーレを基準にすると、彼女以外の女性および大半の男性は、はるかにか弱く、それこそすぐ死ぬ存在だぞ?』
「ちょっとディム、何気に失礼よ?」
『イーレの武術を高評価しているだけだ』
嘘つき――ディム・トゥーラの巧みな誤魔化し方に、カイルだけが突っ込みの思念を送ってきた。
「あら、それなら許すわ」
『で、サイラス。全世界のか弱い女性が保護対象なのか?』
「身内以外は保護対象外」
『つまり、その条件でほとんどが、弾かれるのか。……合理的ではあるな』
「ちょっとディム。納得してどうするの?!」
『サイラスの中で保護がいらない基準がイーレになっている。だからリルを対象とした時、この過保護ぶりが彼にとっては「適切」な保護度合いなんだ』
「……はい?」
「なぜ私なの?」
『イーレ以外にサイラスにまともな社会交流はあるのか?』
「私以外はまともじゃない交流だったわね」
リルの手前、イーレは曖昧な表現を選んだ。
「でも、過去の相手に対してここまで過保護になったことは一度もないわよ?」
『――つまり他はどうでもいい存在だったと』
ディム・トゥーラの解説に全員が軽く口をあけて、サイラスを凝視した。
リル以外の皆が、昔のサイラスの放蕩ぶりを知っていた。その交際相手全員が「どうでもいい」認定とは、常軌を逸していた。
『これって、情緒の成長だと喜ぶべき?』
『俺に聞くな。だがリルに対する過保護を矯正するより早く、大災厄が来ることは保証する』
『それ矯正は無理だって、投げているよね?』
結局、リルを地上から避難させるかどうかの判断は、最終的にディム・トゥーラが下すという折衷案がとられた。
リルも渋々その決定は受け入れた。過保護なサイラスより、ディム・トゥーラの方が地上滞在を許容してくれるのは明白だったからだ。
『俺が判断したときは、素直に地上を離れること、いいな?』
「はい、精霊様」
再び、サイラスがむっとした表情をした。
「俺の言うことは聞けずに、なんでそっちは受け入れるんだ?」
「? だって精霊様が言うんだよ?」
「だから、なんでだよ?」
「精霊様は未来もお見通しなのに、言うことを聞かないって、馬鹿のすることだよ?」
リルはディム・トゥーラを世界の番人と同一視していた。それは崇拝に近かった。
サイラスが初回に説明を端折って、ディム・トゥーラを精霊扱いにしたツケが雪だるま式に増えていた。
サイラスは八つ当たりに虎型のウールヴェを睨んだ。
『リルに対して、俺を下僕として紹介したツケだ。自業自得だから諦めろ』
「そんな古いことを根に持っているのかよっ?!」




