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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第18章 精霊の帰還
652/1015

(33)幼体⑭

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


明日〜日曜日まで更新は夜を予定しております。

ブックマークありがとうございました!

 カイルのウールヴェが、また、やってきた。

 ディム・トゥーラは(うめ)いた。


 こうも頻繁(ひんぱん)に出現されると、カイルは観測ステーションの個室(コンパートメント)に滞在しているのではないか、と錯覚(さっかく)すら覚える。

 報告は毎日しろ、とは言いつけたが、ウールヴェを毎日よこせとは、一言も言ってないはずなんだが――。


 ウールヴェのトゥーラはもう豊かな毛並に戻っていた。前回の毛刈りからそれほど時間がたってないのに、素晴らしい復元力だった。


 最近、ディム・トゥーラとカイルのウールヴェの間では、(ひそ)やかに休戦協定が結ばれていた。だが、それは使役主(カイル)が知らない話のはずだった。


「……今度はなんだ?」


『トゥーラが僕の毛刈りが嫌だって言うんだ。だから頼むよ』


――絶対に 嫌っ! 下手(へた)すぎるっ!


「毛刈りのためだけに、衛星軌道まで普通よこすか?」


『ディムの毛刈りが、いいって言うんだ。専門家じゃないか』


「俺は動物学者であって、犬の美容師(トリマー)じゃない」


――犬じゃないっ! でも かいるより 圧倒的に 上手(じょうず) でぃむ・とぅーらが いい かいる センスがない


『うるさいなあ』


「この間、刈ったばかりだろう」


『服ができるぐらいの毛が欲しいんだ』


「服?なんでだ?」


 ディム・トゥーラはカイルに聞かずに、ウールヴェに直接確認した。


――ふぁーれんしあ姫に 長衣(ローブ)を 作りたいの


 ディム・トゥーラは吐息をついた。

 平和だ。平和すぎる。恒星間天体はどこへ行った。


『いや、それは、その――』


「地上の西の民にでも頼めばいい。彼らだって毛刈りぐらいできるだろう?」


『……イーレが理由を聞いて、からかってくる』


「俺が、からかわないとでも?」


『……ディムは、からかわないじゃないか』


「いや、お前の惚気(のろけ)に毎回、砂を吐きそうだ」


惚気(のろけ)てないだろう?!!』


 無意識、無自覚とは恐ろしい――ディム・トゥーラは思った。


「婚約者のための衣装の素材集めの協力依頼は、立派な惚気(のろけ)だと思うんだが?」


『うっ――』





「お前はいいのか?あんなに毛刈りに文句を言っていたじゃないか?」


 ディム・トゥーラはウールヴェに尋ねた。


――姫のためなら 我慢(がまん)する 姫 特別


「お前も、主人を甘やかしすぎだ」


――でぃむ・とぅーら 「も」 ね


「……毛じゃなくて皮をはぐぞ?」


――やだ





『ディム?』


 会話から締め出されているカイルが慌てている。


『怒った?』


「怒ってはいない。姫のためなら、毛刈りついでにこっちで布材に加工してやる。複製はできないが、布材の均一さは地上より優れているだろう」


『ほんと?!』


「メインデッキがまだ復旧中だから、時間はある。不織布でいいんだな?」


『うん』


「ただしトゥーラは2,3日預かるぞ?」


『ああ、うん――え?あれ?今、ウールヴェの名前を呼んだ?!!』


 失礼なほど、驚愕(きょうがく)の思念が飛んできた。


「気のせいだ。用意ができたら連絡する」


 ディム・トゥーラは即、念話を終了させた。


――でぃむ・とぅーら ツンデレ


「……本気で皮をはぐぞ?」


――ごめんなさい


「地上に変わりはないか?」


――ないけど めれ・えとぅーるは 正確な 星が落ちる 時期を知りたがっている


「まあ、そうだろうな。観測ステーション(ここ)が完全復旧したら、正確な日時が出せる。もう少し待つように伝えてくれ」


――わかった


 ウールヴェは悟りきった顔で、前回と同じように卓の上にあがりこんだ。


「なんで長衣(ローブ)なんだ?」


――姫が 試作品の 手袋を 喜んでくれたから


――姫の 喜ぶ顔をみたいから


「カイルの考えそうなことだな。そういうのを惚気(のろけ)と言うんだ」


――そうなの?


「そうだ」


――覚えた


――そういえば かいるが でぃむ・とぅーらの 幼体が どうなったか 気にしていたよ




 ディム・トゥーラはトリミングを失敗しそうになった。


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