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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第18章 精霊の帰還
651/1015

(32)幼体⑬

お待たせしました。本日分の更新です。

明日も夜更新の予定です。


ブックマークありがとうございました!

 ファーレンシアの侍女達は、ウールヴェのトゥーラの毛でファーレンシア用のミトンを作り上げた。織物(おりもの)の知識がないカイルには、それは奇跡の技術に等しかった。


「すごいな、これ、どうやって作ったの?」


 製作者の一人であるマリカに、カイルは興味津々で尋ねた。


「専用の針で、何度もつつくことで不織布を作ります」


 既製品しか知らないカイル達にとって、原材料である糸や布の造り方は斬新(ざんしん)だった。シルビアも感心してみせた。

 

「すごい、文化ですねぇ」

「それぞれの分野に専任の職人がいるのも、わかるな」


 賢者達の感心ぶりにマリカ達は困惑せざる得ない。彼等は一般的な知識が欠落していた。

 カイルは目をキラキラさせて、専属護衛であるミナリオを振り返った。

 ミナリオも慣れたもので、主人が何を求めているか、正確に察した。


「……布や糸の制作に関する書が欲しいと?」

「よくわかったね」

「最近、そういうことを察するために、精霊から加護を授かったのかと思います」

「じゃあ、さらに加護の訓練の時間を設けよう」


 カイルの提案が、冗談か本気かミナリオには、判断がつきかねた。


「カイルは本気で言ってます。貴方を助手として(きた)えあげるつもりです。逃げ出すなら、今ですよ?」


 シルビアがとても不吉なことを言った。


「カイル様、シルビア様、私もアイリも専属護衛なんですが……」

「ええ、多才でとても優秀な専属護衛だと思います」

「シルビア様、私を菓子職人から解放するつもりは、ないのですね?」


 アイリも突っ込む。


「ありません。特別手当は倍増してもよろしいですよ?」

「どうする、アイリ。我々はすごい勢いで財産を築きそうだ……」


 ミナリオは少し遠い目をして言った。


「そうね。特別手当だけで老後は生きていけそうだわ」


 ミナリオは吐息をついて、カイルの要求事項についての検討を始めた。


「書より、侍女や職人から学んだ方が早い気もしますが……」

「ついでに、牧畜に詳しい人も欲しいなあ」

「探してみましょう」

「まあ、とても暖かいですわ」


 ミトンをつけてみたファーレンシアが感想を述べる。カイルはディム・トゥーラの解析結果を見ながら、その感想のメモを取った。


「水も、はじくかな?」

「濡れません」


 マリカの用意した水桶にミトンの手を浸したファーレンシアが驚いたように言った。


「水をはじいています」


 作った侍女達も驚いていた。そんな材質は地上に今まで存在しなかったからだ。


「冷たさは感じる?」

「感じません。暖かいままです」


 カイルはいろいろな項目を確認した。暖炉の火に手を突っ込む実験は、さすがにファーレンシアにはさせずに、カイルがやった。

 ミトンをつけて暖炉に手を突っ込むメレ・アイフェスに侍女達は悲鳴をあげたが、本人は平然としていた。


「あ、熱くありませんの?」

「うん、大丈夫だ」

「燃えていませんか?」

「うん、燃えていない」


 ファーレンシアは急いでカイルの手が火傷を負っていないか、確認した。カイルの手は無傷だった。


「あとは、これをどうやって量産するかだなあ」


 カイルは脱いだミトンをファーレンシアに渡した。ファーレンシアはそれを宝物のように受け取った。


「ファーレンシア?」

「このミトンをいただいても?」

「もちろん。マリカ達はファーレンシア用に試作したんだよ?」

「宝物にします。カイル様のウールヴェであるトゥーラの毛で作った不思議な手袋(ミトン)ですもの」

「――」


 実験試作物で感動されたことに、カイルは意表を突かれた。

 だが、嬉しそうなファーレンシアの反応に手袋とお揃いのコートでも、作ってあげたくなった。もっと喜ぶ顔がみたい……。





 ウールヴェのトゥーラは、カイルと視線があい、主人の思考を正確に読み取ったため、未来の想定受難に尻尾を極太(ごくぶと)に変化させた。

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