(29)幼体⑩
仙台からの帰還が遅くなり、こんな時間になってしまいました。
申し訳ありません!本日分の更新です!
お楽しみください。
月曜日の更新も、夜予定にしておきます……。
「そういえば西の地で僕が怪我したとき、ファーレンシアがそんなことを言ってた」
カイルは部屋にいるメレ・エトゥールのウールヴェ達を見た。
「メレ・エトゥールのウールヴェは昔、彼をかばって死んだと」
シルビアはうなずいた。
「メレ・エトゥールは、おっしゃってました。絆のある精霊獣を失うことは、肉体の衝撃もさるものながら、精神的苦痛は計り知れないと。絆が深ければ深いほど、双子の半身を失うような絶望があるとのことです。だからメレ・エトゥールと先王はファーレンシア様にウールヴェを与えなかったそうです」
「ファーレンシアに?」
「先見の能力の代償で虚弱だったファーレンシア様が、万が一のウールヴェの喪失の衝撃には耐えられないと判断したのです」
「――」
カイルは精霊鷹が撃たれた時の衝撃を思い出した。ファーレンシアが同じ苦痛を味わう可能性にぞっとした。
「シルビア、ファーレンシアは――」
「大丈夫です。私もファーレンシア様も、ウールヴェに名前をつけて絆を高めることについては保留しています。むしろ、今の貴方の方がリスクが高いのですよ?」
シルビアはカイルに向かってはっきり言った。
「精霊鷹の同調で、あなたは肋骨の骨折をしています。トゥーラとの同調率と絆はその比じゃないはずです。トゥーラが万が一に死んだときに、貴方にも死に至る衝撃が行く可能性があります」
カイルはたじろいだ。
トゥーラは、いまやカイルにとって手足も同然で、様々なことをこなしてくれている。深い絆が存在していることはカイルの認めるところだ。
そのウールヴェのトゥーラが死ぬ。
そんなことを、カイルは想像すらしたことはなかった。
カイルが絆を拒絶すれば、はかなく消えゆく存在だとは、トゥーラから聞かされてはいたが、絆がある限り、どこか不死身の存在だと思い込んでいた。
「今まで、同調中の素体が死ぬことに、貴方は無頓着でしたが、ウールヴェは違います。ディム・トゥーラにもその点をよく言い聞かせてください。ウールヴェの使役――いえ、同調には、リスクがつきまとうということを」
カイルの話をきいたディム・トゥーラはしばらく考え込んだ。
「リード、これはアードゥルと対話するときに、いざとなったら俺との絆を切るという選択をしようとしたことと一致する話題か?」
『……まあ、そうだ』
「あれは同調時の素体の死亡の衝撃のリスク回避の話かと思っていたが、ウールヴェを使役するために絆を結ぶことのリスクだったというわけか?」
『使役とは根本的に前提条件が違う。カイルや君のように精神感応が規格外に強い人間がウールヴェを使役することは滅多にない。普通の加護がある程度の使役者には無関係と言ってもいい』
「メレ・エトゥールの場合、能力とウールヴェの絆が強かったからか?」
『そうだ』
『滅多にない、ということは、メレ・エトゥール以外にも例があったということかな?』
カイルの思念による追及に、ウールヴェは大げさすぎる溜息をついた。
『本当に誤魔化しがきかなくなったな。なんだか私は引きこもりたくなってきたよ』
『貴方が微妙な言い回しをするとき、要注意状態だって学んだだけだよ』
『まず使役と同調は違うという点をあげさせてもらおうか』
リードは講義を始めた。
『ウールヴェに対して同調することは、一般的な使役方法ではない。イレギュラーだと思ってくれ』
「そんなことをするのはカイルだけだろう」
『よくいうよ。ディムだって仲間入りしているじゃないか』
『大丈夫だ。カッコでくくれば、二人とも同類項だ』
リードのフォローのようで、フォローでない言葉に、カイルとディム・トゥーラはそろって、むっとした。双方ともこの規格外と一緒にしないでくれ、と思っていた。




