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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第18章 精霊の帰還
636/1015

(17)帰還⑰

お待たせしました。本日分の更新です。

お楽しみください。


ブックマークありがとうございました!

『そんな政治背景でお前達の安全の方は大丈夫なんだろうな?』

『過保護すぎるほど、保護されているよ』

『当然だ。お前は自分の価値を軽視しすぎる』

『似たようなことをメレ・エトゥールにも言われたけど……』

『さすが、メレ・エトゥールだな。状況をよく把握している。ついでにお前の性格もよくわかってる』

『……なんか、メレ・エトゥールの評価が高くない?』

希代(きたい)の名君だと思うぞ』


 確かに名君だと思うが、普段、他人に対して点数が辛いディム・トゥーラにしては珍しい。将来、中央(セントラル)で人を統べる地位につくはずのディム・トゥーラだけが理解できる何かがあるのか――。

 ディム・トゥーラは同調をマスターしてまで、メレ・エトゥールと対話を果たしている。


『ねえ、なんで同調をマスターしようと思ったの?』

『別にマスターはしていない。まだまだ初歩訓練中だ』

『リードとの同調が初歩のわけないでしょ』

『初歩だ。同調酔いが酷すぎる。ところで、他に連絡事項は?』


 アードゥルとの対話時の同調の件を聞こうとしたら、露骨(ろこつ)に話題を変えられて、カイルは顔をしかめた。こういう抜け目のなさは、メレ・エトゥールと通じるものがある。


『カイル?』

『そういえば、シルビアが上と通じている移動装置(ポータル)が一つだと心もとないと言ってた』

『一つ?ちょっと待て。なんで一つなんだ?』

『必要があって、離宮を中心に水平展開したんだよ。おまけに着地点がイーレは東に、クトリは西にずれた。次に降下する人物は北に飛ばされる可能性もあるんじゃないかと』

『上通じている移動装置(ポータル)はどれだ?』

『サイラスの移動装置(ポータル)

『南の魔の森のヤツか。魔獣がいて、やっかいだな。シルビアの危惧(きぐ)ももっともなことだ。だが、そもそもなんで水平展開したんだ?』


 ディム・トゥーラの当然の質問がやってきて、うっ、とカイルは詰まった。

 イーレは西の民がらみで、サイラスはまさかの脱税のために移動装置(ポータル)を水平展開したと言えば、間違いなく説教が待っている。


『……当事者達にヒアリングしてください……』

『なるほど、俺に怒られる(たぐい)か』

『なんで、わかるの?!』

『お前の行動パターンはお見通しだ』


 ディム・トゥーラは、メレ・エトゥール並みに鋭いし、誤魔化しがきかない。世界の番人と対等にやりあうぐらい頭がきれ、プライドが高い。愚者は相手にしない。

 そう言う意味では、メレ・エトゥールとの共通点は多かった。

 これでメレ・エトゥール並みに腹黒だったら、僕はどうしたらいいんだ――カイルはため息をついた。その彼が支援追跡者(バックアップ)であることは恵まれているが、見切りをつけられる恐怖は常にある。彼の言動には一喜一憂させられることが多い。


『他にも報告漏れがありそうだな。次回、定時連絡までまとめておくように』

『次回って明日だよね?!』

『そうだが?』

『僕に徹夜をしろと?!』

『研究課題のためにはいくらでも徹夜していただろう?そもそもそこまで報告漏れがあるのか?』


 ないと言い切れなかった。


『僕にだけ厳しい……絶対に厳しい』

『見込みがあるからに決まっているだろう』

『――』


 飛んできた殺し文句に、カイルはあっけにとられ、とっさに真横にいるトゥーラの尻尾(しっぽ)の根元をつかんだ。

 尻尾(しっぽ)全回転が始まる前に阻止できた。


『それから言っておくが』

『何?』

『俺は腹黒ではない』


 筒抜(つつぬ)けだった。





 リードは床に伏せる形で笑い死にしていた。

 それでも大爆笑を抑え込み、身体をふるふると震わせて耐えていた。


「…………何か?」


『いや、君に振り回されているカイルが気の毒になっただけだよ。彼の感情変化を動画グラフにして見せてあげたいものだ』


「いりません」


『なんだったら、君の感情変化も(つい)で、動画グラフ化を――』




 ディム・トゥーラは黙って端末を取り出すと、酒の発注書を一瞬にして削除した。


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