(17)帰還⑰
お待たせしました。本日分の更新です。
お楽しみください。
ブックマークありがとうございました!
『そんな政治背景でお前達の安全の方は大丈夫なんだろうな?』
『過保護すぎるほど、保護されているよ』
『当然だ。お前は自分の価値を軽視しすぎる』
『似たようなことをメレ・エトゥールにも言われたけど……』
『さすが、メレ・エトゥールだな。状況をよく把握している。ついでにお前の性格もよくわかってる』
『……なんか、メレ・エトゥールの評価が高くない?』
『希代の名君だと思うぞ』
確かに名君だと思うが、普段、他人に対して点数が辛いディム・トゥーラにしては珍しい。将来、中央で人を統べる地位につくはずのディム・トゥーラだけが理解できる何かがあるのか――。
ディム・トゥーラは同調をマスターしてまで、メレ・エトゥールと対話を果たしている。
『ねえ、なんで同調をマスターしようと思ったの?』
『別にマスターはしていない。まだまだ初歩訓練中だ』
『リードとの同調が初歩のわけないでしょ』
『初歩だ。同調酔いが酷すぎる。ところで、他に連絡事項は?』
アードゥルとの対話時の同調の件を聞こうとしたら、露骨に話題を変えられて、カイルは顔をしかめた。こういう抜け目のなさは、メレ・エトゥールと通じるものがある。
『カイル?』
『そういえば、シルビアが上と通じている移動装置が一つだと心もとないと言ってた』
『一つ?ちょっと待て。なんで一つなんだ?』
『必要があって、離宮を中心に水平展開したんだよ。おまけに着地点がイーレは東に、クトリは西にずれた。次に降下する人物は北に飛ばされる可能性もあるんじゃないかと』
『上通じている移動装置はどれだ?』
『サイラスの移動装置』
『南の魔の森のヤツか。魔獣がいて、やっかいだな。シルビアの危惧ももっともなことだ。だが、そもそもなんで水平展開したんだ?』
ディム・トゥーラの当然の質問がやってきて、うっ、とカイルは詰まった。
イーレは西の民がらみで、サイラスはまさかの脱税のために移動装置を水平展開したと言えば、間違いなく説教が待っている。
『……当事者達にヒアリングしてください……』
『なるほど、俺に怒られる類か』
『なんで、わかるの?!』
『お前の行動パターンはお見通しだ』
ディム・トゥーラは、メレ・エトゥール並みに鋭いし、誤魔化しがきかない。世界の番人と対等にやりあうぐらい頭がきれ、プライドが高い。愚者は相手にしない。
そう言う意味では、メレ・エトゥールとの共通点は多かった。
これでメレ・エトゥール並みに腹黒だったら、僕はどうしたらいいんだ――カイルはため息をついた。その彼が支援追跡者であることは恵まれているが、見切りをつけられる恐怖は常にある。彼の言動には一喜一憂させられることが多い。
『他にも報告漏れがありそうだな。次回、定時連絡までまとめておくように』
『次回って明日だよね?!』
『そうだが?』
『僕に徹夜をしろと?!』
『研究課題のためにはいくらでも徹夜していただろう?そもそもそこまで報告漏れがあるのか?』
ないと言い切れなかった。
『僕にだけ厳しい……絶対に厳しい』
『見込みがあるからに決まっているだろう』
『――』
飛んできた殺し文句に、カイルはあっけにとられ、とっさに真横にいるトゥーラの尻尾の根元をつかんだ。
尻尾全回転が始まる前に阻止できた。
『それから言っておくが』
『何?』
『俺は腹黒ではない』
筒抜けだった。
リードは床に伏せる形で笑い死にしていた。
それでも大爆笑を抑え込み、身体をふるふると震わせて耐えていた。
「…………何か?」
『いや、君に振り回されているカイルが気の毒になっただけだよ。彼の感情変化を動画グラフにして見せてあげたいものだ』
「いりません」
『なんだったら、君の感情変化も対で、動画グラフ化を――』
ディム・トゥーラは黙って端末を取り出すと、酒の発注書を一瞬にして削除した。




