(13)帰還⑬
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
土曜日の更新も夜の予定です。(←引き続き努力放棄)
ファーレンシアと専属護衛達は、あっけにとられてエトゥール王を見送った。
ファーレンシアがカイルのそばに駆け寄り尋ねた。
「……カイル様?」
「うん?」
「……あの……中継とは?」
「今のこの部屋の会話をそのまま、ウールヴェ経由でセオディア・メレ・エトゥールに伝えたんだよ」
ファーレンシアは思わず部屋にいて、ずっと沈黙を守っていたカイルのウールヴェを見た。
「……トゥーラ、そんなことをしたの?」
――うん かいるに 頼まれて
――めれ・えとぅーる すぐに こっちに 向かったよ
「……カイル様、なぜ?」
「当事者の問題だから」
カイルはしれっと答えた。
「二人で話し合うのが一番だと思ったからだよ」
「いつになく、追求が厳しいと思ったらそういうことですか」
「そういうこと。ただシルビアが躊躇っている理由が、メレ・エトゥールの殉死の件だとは、思わなかったなあ。シルビアの気持ちを知れば、メレ・エトゥールは必ず行動に出ると思ったけど、到着が予想より早かったよ」
「確かに早かったし、その後の行動が素早すぎます」
アイリもファーレンシアも、うずうずとした表情を浮かべていた。
「ファーレンシア?」
「カイル様、こうしている場合ではありません」
「はい?」
ファーレンシアは両手の握り拳を作り、熱く主張した。
「先回りです。兄の行き先に思いあたるところがあります」
アイリもうんうんと頷いて、ファーレンシアの意見に同意を示した。
侍女も使用人もギョッとした。
廊下を歩いてくるのは、セオディア・メレ・エトゥールだった。その左腕には、シルビアが抱き上げられており、彼女は片腕に乗せられるという不安定な状態に、必死にセオディア・メレ・エトゥールにしがみついている。
慌てたように彼等は後を追ってくるのは、専属護衛達だったが、セオディアの虜囚となっているシルビアと目があうと、彼等は礼儀正しく視線を逸らした。
「お、おろしてください。メレ・エトゥール」
ずっと拒否されている懇願をシルビアは再びした。
「だめだ」
やはり返答は拒否だった。
「に、逃げませんから」
「本当に?」
「は、はい」
「でも、だめだ。この状態をやめるのも、もったいない」
「はい?!」
「こうして貴女を抱き上げる特権を存分に堪能したい」
「た、た、堪能って、何、馬鹿なことをおっしゃいますかっ?!」
「堪能している。味わっている。楽しんでいる。満足している――」
「言語表現をきいているんじゃありませんっ!」
シルビアは顔を真っ赤にして抗議した。
「違うかな?私の現在の正確な心情なんだが」
「〜〜〜〜っ!!」
「メレ・エトゥール、これはなんの騒ぎですか?」
女性の声で静止がかかり、セオディア・メレ・エトゥールは足を止めた。
前方からやってくる女官長とその傍らには顔見知りの侍女のマリカの姿が見えた。
――助かった……
シルビアは彼女達の登場にほっとした。
女官長のフランカはセオディア・メレ・エトゥールの乳母と聞いている。きっと彼の行動を諌めてくれるに違いない。マリカもとりなしてくれるだろう。
「ああ、フランカ。ちょうどいいところに。至急、シルビア嬢のドレスを新しく頼む。色はもちろん青だ。エトゥールの紋を忘れないでくれ。忙しくなると思うがすまない。我々は今から庭に行ってくる」
「?!」
セオディア・メレ・エトゥールの言葉は呪文に近く、シルビアには理解できなかった。なぜ、ドレス?
だが、女官長とマリカの顔は喜びに輝き、シルビアの混乱に拍車をかけた。
女官長はシルビアに満足げに頷いてみせた。
――え?
女官長はにこやかに頭を深く下げ、周りにいた侍女や使用人、こともあろうか追いかけていた専属護衛までがそれに従い、頭を下げた。
「承りました。行ってらっしゃいませ」
「「「「「行ってらっしゃいませっ!!!」」」」」
見事な唱和だった。
――えええええええ
シルビアの味方は見事なほど、皆無だった。




