(9)帰還⑨
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「なにか、やらかしたとは思っていました」
シルビアの容赦ない言葉に、実際やらかしたカイルは、羞恥のため両手に顔をうずめた。
精神感応者同士の対話としては、間違いなくやらかした部類に入る。アードゥルの特訓で制御が上手くなったと持ちつつあった自信は、粉砕された。
しかも、対話の混乱ぶりは、ウールヴェのトゥーラという中継機がシルビア達に伝達していた。カイルは見栄をはることも、叶わなかった。
「今までの精神感応者の昏倒事件は、相手の能力の未熟さの結果でしたが、ディム・トゥーラに思念を投射するとは、傷害で起訴されても文句は言えませんよ?」
「……ディム・トゥーラは許してくれたよ」
「許さないことが、今までありましたか?」
「うっ……」
「だいたい、ディム・トゥーラは貴方を甘やかしすぎなんです」
「まあまあ、シルビア様、よいではありませんか。無事にディム様の所在が確認できて、今後の連絡方法も取り決めもできた。素晴らしい成果です」
ファーレンシアがカイルを庇い、シルビアにとりなした。
「ファーレンシア様も甘やかしすぎです」
「カイル様はなぜか甘やかしたくなるタイプなのです。ねぇ、ミナリオ」
「そこで、私に同意を求めるのは困ります。エル・エトゥール」
専属護衛のミナリオは、立場上、遠回しにエトゥール姫に抗議をした。
「カイル様を甘やかす立場の代表は、私と貴方でしょう?」
「ファーレンシア様は婚約者ですので、堂々と甘やかしてよろしいかと思いますが、私は専属護衛の立場なので、甘やかすなどという表現は不敬にあたります」
「でも、甘やかしていますよね?」
「そこは、見て見ぬふりをしていただきたいと思います」
「お二人とも、今は甘やかしすぎないで欲しい、という要望が議題ですが?」
シルビアがやんわりと二人の会話を窘める。
「「無理です」」
婚約者も、専属護衛も完全に努力を放棄していた。
シルビアは、やや呆れたように話題の中心の人物に視線を向けたが、カイルは事態に赤面し、さらに両手に顔をうずめた。カイルには、ファーレンシアとミナリオには、甘やかされているという自覚があったからだ。
「で、話し合いの結果は?」
「1日1回の定時連絡を設けた」
「そうしないと、貴方がまた喚きかねないからでしょう」
「ううっ……旧エリアを復旧させて、そこを地上専用にするそうだ」
「旧エリアを恒星間天体にぶつけるなら、それまでの暫定処置っていうことですか?」
「それもあるけど、ほら、思念で端末を操る怪しい動物がいたら、まずいでしょ?」
「ああ……」
シルビアは納得した。
「それは捕獲されて、中央送りになりますね」
「でしょ?潜伏する場所として、旧エリアの管制室を再整備しているらしい」
「私達はそのまま、準備を進めていいのですか?」
「うん、そのうち欲しい資材があれば、送ってもらえる算段を取り付けよう」
「待ってください」
シルビアは手をあげた。
「今、観測ステーションと繋がっている移動装置は、サイラスが定着させた南の森の1基のみです。それでは、心もとないのですが……」
「あ……」
「エトゥール城内か、せめてイーレのいる西の地にもう1基欲しいところです」
「もっともだね。問題は誰が定着させるか、だ」
「ディム・トゥーラに相談してみてください。クトリは戻っても再降下を嫌がるでしょうから、サイラスか、イーレ、私が候補になります」
「また東西南北に飛ばされたらどうするの?」
「次は北じゃないですか?」
「そういう嫌な予想はやめて」
「嫌な予想なんて――残っているのは北ですよ」
「シルビアの世界の番人によく言い聞かせてよ。ぽんぽん飛ばされたら困るって」
「お友達……」
なぜか、シルビアはポッと頬を染めた。
「シルビア?」
「いい響きです。地上で『お友達』がこんなにいっぱいできるなんて、嬉しい誤算です」
「もしもし?」
「シルビア様?」
「茶飲み友達を100人作るのが、私の夢です」
うっとりと夢想する治癒師の独白にカイルは慌てた。
「そこに世界の番人を同列でいれないでくれ、絶対にだ」
シルビア、まさかの(茶飲み)友達100人計画(小学1年生並み)




