(5)帰還⑤
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引き続き、「エトゥールの魔導師」よろしくお願いします。
「これは、いったいどういう状況でしょう」
「かなり落胆していますね」
ファーレンシアとシルビアは、談話室で瞑想しているカイルではなく、その隣にいるウールヴェのトゥーラをずっと観察していた。
トゥーラはさっきから様子がコロコロ変わった。
姿形はいつものウールヴェなのに興奮したり、イカ耳になってしょげたり、憤慨したり、涙目になったり、狼狽したり忙しかった。
「なんてわかりやすい」
シルビアは、ぼそりと言った。
「シルビア様、状況がわかりますか?」
「トゥーラは今、カイルの心情と完璧にシンクロしています」
「するとディム様がいらっしゃらなかったとか?」
どうみてもウールヴェは落ち込んでいた。
トゥーラはしょんぼり項垂れてイカ耳になり、伏せっている。尻尾に力もなく、しなだれている。目も涙目だった。
「いえ、ならば、すぐに瞑想を終えると思います」
「……なるほど」
「おそらく、今、怒られてます」
「何を怒られているのでしょう?」
「やらかしたのかもしれません」
「やらかした?」
「カイルはよく思念波で相手を気絶させていました」
「あ……」
ファーレンシアはなんとなく、理解を示した。
「それは、ディム様の厳しい指導が入るかもしれませんね」
それから、ふふっと笑いを漏らした。
「しばらく戻ってこないと思います。ディム様がお戻りになられたのなら、積もる話もあるでしょうし」
「その可能性はありますね」
「あら…………」
ウールヴェのトゥーラが、しゃきっと立ち直った。複数の尻尾を全力で高速回転させている。
「当確です。ディム・トゥーラが戻りました」
「まあ、よかったです」
ファーレンシアは自分のことのように喜んだが、彼女自身のウールヴェに何か告げられて、一気に困惑の表情を浮かべた。
「……シルビア様、大変です」
「どうかしましたか?」
「トゥーラの尻尾が増えているそうです」
「?!」
ファーレンシアの指摘に、シルビアは躊躇せず尻尾扇風機の根元をつかみ、回転を強制終了させた。
「1本、2本、3本……ああ、また増えているっ!」
「これは、つまり?」
「カイルの喜びの思念がダダ漏れで、影響を与えてます。ファーレンシア様、申し訳ありませんが――」
「遮蔽ですね?」
「はい」
ファーレンシアはカイルの周りに薄い遮蔽を幾重にも、張り出した。
「ただ、トゥーラは絆がありますから、遮蔽はあまり意味はないかと思いますが……」
「いえ、遮蔽をしないとファーレンシア様やミナリオに影響があるかもしれません」
「ファーレンシア様はともかく、私ですか?」
談話室の扉のそばで、アイリとともに哨戒しているミナリオは、話題に突然でた己に困惑していた。
「ええ、立場上、カイルの影響を受けやすいです。加護が強くなったりする可能性があります」
「カイル様を守れる加護が増えるのは、大歓迎です」
「……ポジティブですね」
「……いえ、そう考えないと、己の無力さに神経衰弱になりそうです」
「ミナリオが神経衰弱になるなんて……」
同僚のアイリが驚いたようにつぶやく。
「アイリ、それはどういう意味かな?」
「だって、貴方は胃の丈夫さと貴族に物怖じしない図太さが売りだったじゃない」
「その頃の私が懐かしいよ」
「貴方の後釜を狙う同僚は、わんさかいるわよ?」
「カイル様が私を望んでくださる限り、この任務は渡すつもりはない」
「ああ……ここにも、人たらしの犠牲者が一人……」
シルビアが遠い目になって、嘆いた。
「彼はどこまで、被害を広げるのでしょう」
その究極人たらしの将来の伴侶は、自分も魅了に落ちた自信があるので、赤面し、沈黙を守った。
「それにしても、よく気がついたものです」
ディム・トゥーラが観測ステーションに戻ってきたかもしれない、と強く主張したのはカイルだった。




