(2)帰還②
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『いったい、どういうコツが?』
『微量な電波と違和感だよ。地上生活が長いと、それらに敏感になる。君もすぐにわかるようになるだろう』
発見した監視装置を無効化し、別の偽装記録を作成したのは、ジェニ・ロウだった。
彼女は観測ステーションの記録を一括管理できるようにプログラムを書き換え、管理者を限定した。その手際は素晴らしく、彼女を敵にまわしたら、中央は滅亡するのではないだろうか、とさえディム・トゥーラは思った。
『彼女を怒らせない方がいい。いつのまにか論文を消去される』
『気をつけます……』
つまりは、ロニオスという人物は、過去にジェニ・ロウを怒らせて、論文を消去されたことがあるのだろうか?
やけに例えが具体的だったし、ジェニ・ロウもロニオス対応策をこと細かに語ってくれ、初代達の過去の生活を垣間見た気がした。
初代の男達は、問題児だらけ――ディム・トゥーラはそういう結論に達した。
観測ステーションの再起動は二週間ほどかかった。
ジェニ・ロウはメンテナンスを理由に旧エリアのインフラを復活させていた。
ディム・トゥーラ達は旧エリアの廊下を歩いていた。
レオン・フレムのペット騒動で一時復活させた空調は、大量の埃を回収していて、旧エリアを復旧させるのに一役買っていた。
「俺の始末書が無駄にならずにすんで幸いです」
皮肉っぽく、ディム・トゥーラは言った。
「記念すべき君の初始末書だったなあ」
懐かしそうにエドがしみじみと語った。
「滞在中は、そこからは雪だるま式に増えたね?全部、カイル・リードがらみで」
「彼との出会いを作った上司を恨んでますよ」
「感謝の間違いだろう?」
それに対してディム・トゥーラの返答はなく、彼は現在位置を確認するため端末を見るふりを続けていた。
「カイルがからむと本当に素直じゃないんだから」
エド・ロウが容赦ない感想を述べる。
『いや、君の部下でありながら、素直さを維持している貴重な人物だぞ、彼は』
「それはどういう意味か、解説してもらいたいなあ」
『この意味がわからないようでは、君も耄碌したな』
「我々だって見本になるくらい素直だろう?」
『自分の欲求に関しては、いつでもそうだったな』
「それを後始末する人物には迷惑をかけたことをお忘れなく」
ジェニ・ロウの一言が男達を黙らせた。
ディム・トゥーラは呆れたように上司達を見つめた。
「…………相当やらかしてますね?」
「やらかしているに決まっているでしょ。――ああ、ここよ」
ジェニは立ち止まった。
壁際の認証端末に手をかざすと、旧メインデッキの透明な扉が出現した。
『エド、旧エリアの状態を確認してくれ』
「了解」
『ディム・トゥーラ、旧エリアの管理者登録をすませるように』
「わかりました」
『ジェニ、地上に設置した拠点と移動装置の稼働状況を把握してくれ。あと、こちらで使える思念端末を用意して欲しい。私はこちらに引きこもる。ここの入室者は限定してくれ』
「わかったわ」
『エド、恒星間天体の最新形状を監視しているシャトルから随時最新情報を受領してくれ』
「随時?」
『常に最新の情報でなければ、意味はない。あと旧エリアの廃棄用爆発物の積算を。なるべく正確に頼む』
「経年劣化による効率係数はどうする?」
『私があとで算出しよう』
次々と指令が飛ぶ。ロニオスが司令官として有能であることは間違いなかった。ロニオスとジェニ・ロウという味方の出現は、ディム・トゥーラから見えない重圧を消し去った。
『ディム・トゥーラ、ここが復旧したら、地上組の生体シグナルを追跡したまえ。降下人数は何人かね?』
「カイル・リード、シルビア・ラリム、サイラス・リー、イーレ、クトリ・ロダスの5名です」
『彼等の管理は一任する。恒星間天体の軌道変更計算は再度するように。旧エリアの分離手順は緊急事態時の対応を含めて、暗記しておくこと』




