(44)閑話:指導教官の正しいあしらい方
お待たせしました。本日分の更新です。
例によって
麦酒=ビール
米の発酵酒=純米大吟醸
蒸留酒=山崎25年
果実酒=ドイツワイン(白)もしくはアイスワイン(フランス、イタリアではないところがミソ)
で、読みかえてお読みください。
「バカね。攻略方法を誤っているわ」
中央のエリート管理官は言った。
「誤っているとは?」
「最大の弱点をつけばいいのよ。彼の場合は、発酵酒を全廃棄すると言えば、いいの」
『それは冒涜というものだっ!!許されないっ!!杜氏に土下座して詫びるレベルだぞっ!!』
立ち聞きしていたのか、思念をキャッチしていたのか、不明だが、純白のウールヴェはいきなり部屋の中に入ってくると猛烈に抗議を始めた。
慣れているのかジェニ・ロウは彼を無視して、ディム・トゥーラに語り続けた。
「あと酒の注文書の削除、これは必須ね。どさくさにまぎれて、数量が増えたりしているから要注意案件よ」
白いウールヴェは、中世の有名絵画のような声にならない悲壮な叫びをあげたように見えた。
カイルに光景を伝え、絵をかかせたい衝動にディム・トゥーラはかられた。
「他には?」
「彼を隔離室に閉じ込めて、隣で宴会。それをモニター中継」
ディム・トゥーラは軽く右手をあげて、管理官の言葉を遮り、意見を言った。
「あの……全て、アルコール依存症患者への嫌がらせに聞こえますが……」
「ええ、アルコール依存症患者への嫌がらせよ。これのローテーションに限るわ」
「俺は彼を指導教官とした時のアドバイスをきいたのですが」
「わかっているわ。だからアドバイスしているの」
真顔で言われ、ディム・トゥーラは困惑した。
「まず1点確認させてください。彼はアルコール依存症ですか?」
ジェニ・ロウは、ディムの質問に悩ましい表情を浮かべた。
「依存というより執着かしらね?身体を壊すわけでは、ないからかえって始末が悪いのよ。本人は昔から趣味の範疇だと主張するけど……」
「抑制がきかない?」
「ええ、本当にやっかいなの」
『何を言うっ!私は米の発酵酒を愛してやまないだけだっ!』
「と、本人はよく主張するけど、相手にしないで」
「はい」
『……どうして理解してもらえないんだ』
白いウールヴェは周囲の無理解にイカ耳になって嘆く。
「常軌を逸しているからよ」
ジェニが言う。
「だいたい部下の研究課題を上司権限ですり替えたりする?」
「………………やったんですか?」
「ええ」
「どんな課題に?」
「糖化とアルコール発酵の新規開発手法について」
「それ原始的な酒造手法にからんでませんか?」
「エレンの管轄だった西の地に酒文化を伝授したのは彼よ」
ディム・トゥーラは唖然とした。
「そこまで深入りしたんですか?!」
ディム・トゥーラは地上に酒豪戦闘民族が爆誕している事実をまだ知らなかった。
『残念なことに、彼等は麦酒に走ってしまい、米の発酵酒の繊細な芸術性は理解してもらえなかったんだ』
「と、いうのは?」
『酔えれば、なんでもいいと言うことだ。実に嘆かわしい』
「それ、伝授する民族の選定を誤ったのでは……?最初からエトゥールに米の発酵酒あたりを伝授したら、よかったのでは?」
『エド・アシュルにとられた』
「………………は?」
『エトゥールは果実酒のサンプルエリアにされたのだ』
「所長、いったい地上で何をやっていたのです?」
部屋にいて、ずっと沈黙を守っていたエド・ロウにディム・トゥーラは突っ込んだ。
「私は果実酒と蒸留酒の研究だよ。なかなか奥が深かった」
返答は完全に開き直っていた。
「これは研究員として、悪い見本の集大成だから、参考にしないでちょうだい」
「…………はあ」
「もう少し直接的なアドバイスをあげようか?」
エド・ロウは言った。
「ロニオスの教育がスパルタ過ぎて、限界に感じたら――」
「感じたら?」
「晩酌につきあうと言えば、即授業が終わることを保証する」
『うん、すぐ授業を中断してあげるよ』
ディム・トゥーラは指導教官の選択を間違えた己にようやく気づいた。
上司に課題を変えられた犠牲者がアードゥルだと知って、ディム・トゥーラの同情率順調にアップ中(注:好感度に非ず)
さて、そろそろ新章に入りたいと思います(希望)




