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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第17章 精霊の献身
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(36)閑話:I'm On Your Side③

お待たせしました。本日分の更新です。お楽しみください。

週末は、いつものように昼過ぎ〜夕方(←最近保険じゃなくなった……)の更新予定です。


ブックマークありがとうございました!

 エトゥールの治癒師は、アードゥルの折れて変形した指を不可思議な技術で、強引につなげた。ミオラスは歌でアードゥルの意識を奪ったが、この時ばかりは歌で眠るアードゥル独特の悪癖に感謝した。


 傍目(はため)から見ても、骨折の治療は痛そうで、カイル・メレ・アイフェスなどは治療光景から目をそらし、ずっと身をすくませていた。何かトラウマがあるようだった。


 砂まみれの男達とウールヴェは、シルビアに風呂に入るように厳命され、すごすごと退室した。

 アードゥルも似たような状態だった。

 服を脱がし、濡れた添毛織物(タオル)で身体をふき、髪を(くし)でとかし、砂をのぞいた。

 治療で砂まみれになった敷布を使用人を駆使して交換すると、シルビアはその他の傷の治療を始めた。ミオラスは助手を勤めながら、時々アードゥルの脈を測り、生きていることを確認して安堵(あんど)するのだった。




 しばらくは指を使わせないように、とシルビアはミオラスとエルネストに付添(つきそい)の注意点を告げた。

 監視していないと、痛みが麻痺しているため、強引に指を使ったりすることが多々あるそうだった。そうなるとのちのち手術が必要になることもあると警告された。


「食事のナイフ・フォークやペン、本とか日常的に使うものを1週間ほど遠ざけてください。彼等はやらかしますから、気をつけてください」

「やらかすとは……?」

「そうですね。手のひらの神経を切りかけたのに剣を握ろうとしたり、腹部を貫通した怪我でも脱走して絵をかいたり、解毒中なのにリハビリと称して激しい運動したり――」


 やけに事例が具体的だった。


「エルネスト様はそんなことは、ありませんでしたが……」

「まあ、なんて優秀なんでしょう!さすが品行方正なアドリー辺境伯です」


 治癒師の感嘆には嫌味な調子がなく、本心からの賞賛(しょうさん)のようだった。

 エルネストは話題に出されて嫌そうな顔をした。


「問題児と比較されて、()められても嬉しくないんだが……」

「その問題児を診療(しんりょう)してきた私の苦労を察してください」


 真顔でシルビアは切り返してきた。


「……まあ、確かに」

「念のためお尋ねしますが、彼はどちらに分類されますか?」


 寝台で眠るアードゥルを見ながらのシルビアの質問にエルネストは即答した。


「間違いなく問題児だ」

「そんな気はしました。ミオラス様、監視(かんし)をお願いします」

「喜んで」


 ミオラスは付き添いの大義名分を手に入れた。

 エルネストがミオラスを見た。


「ミオラス、君に何があったのか、ききたい」

「――」


 ミオラスは固まった。

 相変わらずエルネストは、ミオラスの些細(ささい)な変化に鋭かった。アードゥルと足して二で割れば二人とも平均になるのに、と愚痴(ぐち)に近い感想をミオラスは抱いた。


「どんな些細なことでもいい。今後のアードゥルの治療方針にもかかわるので教えて欲しい」


 しかも逃げ道をふさぐこともうまい。ミオラスはため息をついた。


「……幻覚を見ました」

「幻覚?」

「アードゥル様が目の前に立っているような――精神的に疲れていたのでしょう」

「それはアドリーに待機していた時の話ですか?」


 シルビアまでが追求に加わった。


「……はい」

「何か会話をしたか?」

「何も……私がその……一方的に(ののし)っただけです。……誤解されたままが悔しくて……悲しくて……心が読めるのに、私の心を読んでくださらなくて……」


 ああ、と賢者(メレ・アイフェス)達は何かを(さっ)したように納得した。


「アードゥルの『連れて()けない』に心あたりは?」

「……私が強請(ねだ)りました。一緒に()きたいと……」

「なるほど、それか」


 エルネストは(うなず)いた。


「君のためにアードゥルは戻ってきたのだな」

「え?」

「まあ、そこらへんは本人に聞いてみるといい」


 エルネストが手を伸ばしてきて、ミオラスの(ひたい)に指で触れた。

 なぜかミオラスは身体が楽になった気がした。


続きます。

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