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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第1章 探索
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(6)消失

『ディム・トゥーラ!カイルの生体反応(バイタル)が消失しました!』


 シルビア・ラリムの悲鳴に近い精神感応(テレパス)にトゥーラは跳ね起きた。真夜中。上着をつかみ、カイル・リードの私室に走る。

 低下ではなく消失だと?!

 生体反応(バイタル)の消失は、個体の死亡か危篤状態であることを示す。カイル・リードが死にかけていることになる。


「いつ?」

『今、たった今です!』

個室施錠(ロック)を解除してくれ!」

『やっています!』

「カイル!」


 飛び込むように侵入した個室(コンパートメント)は、予想に反して無人だった。


「部屋にはいない。IDスキャンをして現在位置を教えてくれ!」

『それも反応がありません!』


 反応がないなんてことはないだろう。舌打ちして彼はすぐに警報を鳴らした。


『全員カイルを探してくれ!何処(どこ)かで倒れている』


 観測ステーションは大騒ぎになったが、かまうものか、とディムは思った。あとで詫びるのは本人だ。土下座でもなんでもすればいい。

 だが、時間がたつにつれて事態は深刻さを増した。

 カイル・リードはどこにもいなかった。





 上層部は行方不明者の発生に中央(セントラル)への報告にかかりきりになり、捜索を続けるメンバーを除いた人間は、皆集まった。


 カイル・リードは観測ステーション内に存在しない。監視機器類の全てがそれを示していた。


 冷静さを取り戻したシルビアが、皆にカイル・リードの生体反応(バイタル)記録の履歴を見せる。確かに唐突に彼の生体反応(バイタル)は消えていた。


移動装置(ポータル)の数を確認して。もしかして無断で地上に降りているのかも」

 イーレが指示をだす。

「全数揃っています。稼働記録もありません」

中央(セントラル)に帰ったとか」

連絡船(シャトル)離艦(りかん)していません。そもそもゲート通過で記録が残るでしょう」


 ディムは身を乗り出した。


「映像記録を出してくれ、カイルの個室(コンパートメント)付近の廊下だ」

「彼は3時間前に個室(コンパートメント)に戻っています」

「俺の個室(コンパートメント)で奴と話したあとだ。一致する」


 部屋に飛び込むディム・トゥーラの映像までに、誰も廊下を移動していない。


「彼は部屋をでていないことになるわね」

「でも、いなかった」

「彼、移動能力(テレポーション)あった?」

「ない」

「IDの移動痕跡もないんですよ」

 シルビアは蒼白になり訴えた。

「ありえないことです」


――ありえない。最近そのフレーズを聞いたではないか。


 ディム・トゥーラは歩きだした。

「どこに?」

「ヤツの個室(コンパートメント)

「私も行くわ。シルビア、IDと生体反応(バイタル)の正確な消失時間を上層部と中央(セントラル)に報告をあげて」


 ディム・トゥーラはイーレと共にカイルの個室(コンパートメント)に再度向かった。


「中世の画像娯楽でこういうネタあったな」

「どんな?」

「宇宙生命体に()われるヤツ」

「あら、それなら血とか肉片とか痕跡は確実にありそうね」

「イーレのその冷静さが今は頼もしいよ」


 カイルの個室(コンパートメント)に二人は足を踏みいれた。


「寝た痕跡はない」

「絵でも描いてたんじゃないかしら」

 イーレは床に散らばっている紙を拾い集めた。

「綺麗だけど相変わらず非効率な趣味よね」


――地上の絵だ


 カイルから事情を聞いているディム・トゥーラはすぐに理解した。非常事態であるにもかかわらず(そこ)にある情報量の多さに研究者として気をとられた。カイルの絵の緻密さは称賛ものだった。観察眼の鋭さが、貴重な画像資料を生み出していた。風景、建物、大樹、庭園風景、服に宝飾品――。

 人物画?

 ディム・トゥーラは数枚の絵に釘付けになった。

 それはおそらくカイルが違法に接触した少女の姿絵だった。



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