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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第17章 精霊の献身
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(19)狂飆⑪

 アードゥルは意識を取り戻した。

 あの不思議な空間で1時間くらい過ごしたような体感があったが、実際は2〜3秒くらいかもしれない。


 身体は落下している。


 その落下する身体の腕をウールヴェが(くわ)えていた。こんな間近にウールヴェ姿のロニオスがいることにアードゥルは驚いた。


『アードゥル、いい夢は見れたかね』


 呑気(のんき)な問いかけがきた。


「…………なぜ、貴方まで落ちている?」


『私の本気を示すには、ちょうどいいだろう』


「とっとと、帰ればいい」


『賭けの報酬はもらう。君は私のものだ』


「――他人の手を借りるなんて詐欺(さぎ)じゃないか」


『ふふ、甘いな。私は「このウールヴェの姿で君の力場(りきば)を消すことができるか賭けよう」と言ったんだ。他人の手を借りるのは、最初から作戦のうちだ』


「…………思い出した。貴方は昔からズルい人だった」


 ロニオスは笑った。


『ズルく、周囲をふりまわし、その反応を楽しむのも、賭け事の醍醐味(だいごみ)だ――アードゥル、エルネストも来ている』


「!!」





『アードゥル!ミオラスを悲しませるなっ!!」





 怒鳴るようなエルネストの強力な思念が頭に響いた。

 なんとズルい集団だろうか。

 アードゥルは修羅場(しゅらば)の最中であったが、呆れた。

 あの手この手で現実世界に引き止めようとしている。

 そのズルい集団の代表格の人物が横にいて、(ささや)いた。


『アードゥル、世界の命運は君の両手に均等に乗っている』


「――」


『好きな方を選びたまえ』





 ミオラスの顔が浮かんで消えた。





「本当に貴方はズルい人だなっ!!!」


 アードゥルは怒鳴り、力場(りきば)を張った。周囲ではなく、下方に対してだった。

 落下を止めようとする急激な制動に身体が衝撃(しょうげき)を受ける。わずかに落下速度は(ゆる)んだが、それだけだった。


「――手遅れだ、加速度を打ち消しきる頃には地面に激突だ」


『いや、十分だ。そのまま続けてくれ』


 転移する余力はなかった。


「一緒に心中する気か?貴方だけでも――」


『いや、いい』


「物好きな……」


『だいたい私は(あきら)めていない』


 アードゥルは下方への力場(りきば)を作ることに集中した。落下速度は緩んできたが限界は近かった。





『カイル!!!!』




「!!!」


 待っていたディム・トゥーラの呼びかけに、カイルは正確にウールヴェを跳躍(ちょうやく)させた。


「アードゥル!!」


 エルネストの思念と実際の叫びがアードゥルに届いた。


――ぶつかるっ!!


 真下に出現した彼等は、アードゥル達の落下進路上にいて、衝突(しょうとつ)しそうだった。


 その時、下から噴き上げる上昇気流の風が発生し、アードゥルと白いウールヴェの落下速度をかなり和らげた。

 アードゥルはそのわずかな時間で力場(りきば)を切り、エルネスト達を(はじ)き飛ばす事故を未然に防いだ。



 エルネストはアードゥルの身体を、カイルはリードの身体を受け止めた。



「トゥーラ!!!」


 カイルは、放物線を描いて落下する前にトゥーラを再び跳躍(ちょうやく)させた。最初にいた無人島の砂浜に戻るつもりだった。




『「「あ」」』



 カイルは計算し忘れていた。

 アードゥルとリードの体重と、彼等の落下速度の負荷をである。

 あと少し転移距離が足りず、派手な水飛沫(みずしぶき)を上げながら、彼等は海に落ちた。


 幸い(おぼ)れる深さではなかった。エルネストとカイルは飲んだ海水に()せながら、すぐにアードゥルとリードの身体を砂浜に引き上げた。


――ご、ごめん


 自力で砂浜に上がったウールヴェのトゥーラが、イカ耳になって()びる。


「いや……上出来(じょうでき)だよ」


 海水に咳き込みながら、カイルはトゥーラを()めた。皆が生きている――それが重要だった。


『確かに上出来(じょうでき)だ。お前もよくやった。ストレートに()めてやる』


「!!」


 止める間もなく、ディム・トゥーラの気配は、リードの身体から消えた。

え?ディム・トゥーラが褒めた?ストレートに?マジ?マジで?

カイル絶賛混乱中(笑)

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