(12)狂飆④
本日の更新です。9/22(木)まで朝更新予定です。(多分)
お楽しみください。
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「先程、急に嵐が発生した箇所があって面白いんですよ」
「「どこに?!!」」
二人の鬼気せまる迫力にクトリは怯えた。
彼は急いで、空中に複数の端末情報のスクリーンを展開した。
クトリの持つ気象観測ユニットは、奇妙な雷光現象を捉えていた。普通の嵐ではないことは、素人のカイルでも理解できた。
「こ、ここです」
「上空一万メートルだと?!」
「クトリ!ここの真下の地表座標を教えて!!」
「ないです」
「は?」
「ここ、海の上だから地表座標が存在しません」
クトリが困惑したように答えた。
詰んだ――っっっ!!!!
カイルの追跡作戦は見事に頓挫した。海上に跳躍すれば、翼がないウールヴェは海に沈むことになるだろう。
蒼白になったカイルの右肩をエルネストは強くつかんだ。
「いや、カイル・リード。発想は悪くない。真下じゃなくていい。一番近い陸地を探せ」
「簡単に言うけど、観測ステーションが停止していて、そんな地表情報なんてどこにも――」
カイルの脳裏に記憶がかすめた。
「――ある!!」
カイルは衣嚢から、いまやお守り代わりに持ち歩いている記憶キューブを取り出した。ディム・トゥーラとの長距離接触が夢ではない証拠となった記憶キューブだ。
談話室に放置されている端末のひとつに飛びつき、自分専用の記憶領域を展開した。
余計な意趣返しの映像とともに、現在の問題を解決する手段がそこにあった。ディム・トゥーラがよこした惑星の基本情報だった。
「ディム・トゥーラ、天才っ!最高っ!さすが未来の技術官僚様っ!もう、尊敬しちゃうっ!」
カイルは興奮しながら作業を進めた。カイルの作成した手書きの地図より正確な立体地図が再構成されていく。
「クトリ!観測ユニットの配置情報と現在の異常気象位置を、この端末にシンクロさせて!!」
「は、はい」
クトリが慌ててカイルの持つ端末に気象情報を転送した。情報の統合処理が瞬時に行われた。
「カイル・リード、ここに飛べ」
エルネストが一番近い無人島らしき領域を示した。
カイルは現在位置からの正確な距離を頭の中で計算していった。
「許容誤差は30メートルぐらいを目指せ」
「その数値の根拠は?」
「できれば、砂浜や海岸際の岩場に着地したい」
「できれば?」
「例えば洞窟の分厚い岩盤や樹木の幹にめり込む可能性があるということだ。ウールヴェの跳躍実験を今、やりたいかね?」
未知の場所に跳躍する危険性をエルネストは指摘した。
エルネストの指摘はもっともな話で、安全な確定座標がないと、移動装置を設置できない制約と一緒だった。
カイルは考え込んだ。
二重遭難のリスクは回避しなくてはならない。
「腹黒番人っ!!」
カイルは天井に向かって叫んだ。今、この時も世界の番人が見ていると、確信していた。
エルネストとクトリは、見えない存在に向かって突然話しかけ始めたカイルにぎょっとした。
「僕は今からエルネストと、無人島に散歩するためにウールヴェで出かける。事故が心配ならちょっとぐらい補助してもいいぞ?」
返事はなかった。
「なんだ、それは」
「大義名分ってやつだよ。世界の番人が、この非常事態で協力してくれないのは、なんらかの制約があるんだ。彼もヤキモキしながら見守ってストレスを溜めているに違いない。だから僕達は、ちょっと距離のある無人島に散歩に出かける」
「この状況でそんな――」
「散歩。あくまでも散歩」
「――」
エルネストはカイルを見つめて、長い溜息をついた。
「君はなんて小賢しいんだ」
「褒めてくれてありがとう」
「褒めてないっ!」
「最近、みんなが僕のことを小賢しいって言うから、僕はそれを褒め言葉として認知することにしたんだ。規格外が褒め言葉なら、小賢しいも褒め言葉扱いしても、なんら問題はないよねぇ?」
カイルは真顔で主張した。
現在のカイルの褒め言葉認知リスト:「規格外」「小賢しい」
周囲の人間のカイルについての共通認知:無自覚な人たらし
作者として、カイルの将来がとても心配です(お前が言うな)




