(8)お茶会⑧
本日分の更新です。
週末3日間(土曜日〜祝日)は昼過ぎの更新を予定しています。
引き続きお楽しみください。
「アードゥル、時々、僕は考えるんだ。どこまで偶然で、どこから必然だったんだろう、と」
カイルは苦笑しながら、アードゥルを見つめる。
「何が偶然だと言うのだ?」
「僕がたまたま研究都市を離れる手段を探していた。そこに所長のエド・ロウに出会った。僕の支援追跡者になる所長の部下であるディム・トゥーラを知った。そして幾つかの探査を終えて、共にこの惑星にきた。最初の精神跳躍でファーレンシア・エル・エトゥールに出会った。それから僕は、世界の番人に地上に引きずり下ろされたんだけどね」
「…………それで?」
「セオディア・メレ・エトゥールに隣国の進軍を警告したんだけど、それはたまたま支援追跡者がまとめあげた情報を僕が目撃して記憶していたからだ」
「………………」
「戦争中にメレ・アイフェスとして滞在していると、メレ・エトゥールの敵対勢力に拉致されたんだけど、そこには監禁されていた西の民であるハーレイに出会った。この出会いは偶然?それとも因果的必然?」
「…………知らん」
「貴方達が南の領地や西の地で暗躍していたことも、理解しているけど、貴方達の行動が「今」という因果的必然を生み出したとも考えられる」
「そんなことを考えていたのか」
「でも、僕だけじゃない。貴方達にも同じことが起きているんだ」
「私達に?」
「歌姫がいなければ、おそらくエルネストは助からなかった。では、歌姫と貴方達の出会いは?」
「ミオラスとの出会いなど、たまたま娼館の路地裏を私が通りかかっただけで――」
アードゥルは口を閉ざした。
自分があの道を選ばなければ、ミオラスは死んでいたのだろうか?
「ほらね、たまたまなんだよ。一見、偶然の産物のように見える。でも、僕は因果を感じる」
「因果などない」
「ここは確率論的に論じるべき?」
カイルはしゃがみこんで、花にふれつつ、会話を続けた。
「貴方がその国にいた理由は?その日の天気は?何をするためにそこにいたの?なぜその道を選んだの?どんな偶然が重なって、貴方はミオラスに出会ったのだろう?」
「――」
「興味深いな」
黙って聞いていたエルネストが参戦した。
「どう思う?アードゥル」
「偶然だ」
「本当に偶然かなあ?見えない力が働いているように思える」
「その見えない力とは世界の番人だろうか?」
エルネストはカイルに問いかける。
「わかんない」
「………………」
「………………」
「仮説としてすら、不成立だな。『わからない』など研究者としてあるまじき発言だ」
「まったくだ。鍛え直す必要がある」
「いったい誰が」
「指導教官は君だ、エルネスト」
「ちょっとまて。なぜ私になる?」
「今、論じている『必然』ネタの一種だろう」
「いや、断じて違う」
「このあとの対話しだいで付き合いが長くなる可能性はゼロではないぞ。この出来の悪いヤツの指導はまかせた」
「…………アードゥル、やはりウールヴェは瞬殺を推奨だ」
「僕の指導教官になる、ならない、の検討で、世界を滅ぼすのは絶対やめて」
老害に近い大人げない初代達の反応に呆れつつ、カイルは釘をさした。
「風がでてきたな。そろそろ時間だが……」
太陽の位置を確認しながらエルネストが呟いた。
――くるよ
トゥーラがカイルに告げる。カイルは身構えた。
「アードゥルがブチ切れたら、リードを抱えて全速力で逃げるからね?」
――わかった
「シルビアに障壁を張るように伝えて」
――伝えた
「私が待つのは30秒だからな?」
「ブチ切れる気満々じゃないか。もう少し融通とか、妥協って言葉は辞書にないの?」
「ない」
「これだけ僕に心労をかけるんだから、対話が成立したら、ちょっとは協力してよね」
「エルネストを好きなだけ使うといい」
「アードゥル、私だけを人身御供にするな」
「骨は拾ってやる」
アードゥルは一言でエルネストの抗議を封じた。




