(55)閑話:ファッション革命②
お待たせしました。本日更新分、お楽しみください。
超高性能の研究員服の開発理由の根本は、研究馬鹿達の問題行動だったというネタ。(まあ物の開発理由はリアルでもそんなものだ……)
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実際にファーレンシアがメレ・アイフェス製の下着を着用してみた。上衣と下衣が一体化したツナギ形式の下着など世界には存在していない。
しかもボタンもなにもないのに、前部分が自動に分かれ、ファーレンシアが着込むと、何もしていないのにその部分がつながって、継ぎ目もわからなくなった。
当然、周囲がどよめいた。
「色は薄いピンクにしておきましょうかね」
シルビアはなんだか、楽しそうだった。ファーレンシアは着心地感がないことに戸惑っていた。
「なんか、裸のままのような気分です」
「そのうち慣れます。袖丈、裾丈は自在に変えられますから、心配ありません。普段のドレスの下にこれだけ着ていただくこともできます。むしろそれをお願いしたいです」
シルビアは説明を続ける。
「大変薄いですが、それなりに丈夫で、多少の防刃機能があります。上着ほどじゃありませんが。何よりも体温調節や身体への負荷を低減します」
「彼の方の刃はカイル様を貫きましたが……」
「特殊な刃の剣だったと推察します。むしろ、機能が働いてあの程度ですんだと言えます」
シルビアの言葉にファーレンシアの背筋が凍る。我が婚約者は本当になんという無茶をしてくれたのだろう。
「でも、ファーレンシア様につけていただきたい理由はもう一つあります」
「はい?」
「コルセットです。あれってキツいでしょう?胸や背中を圧迫して、医学的に見てとてもよろしくありません。あれの圧迫感と痛みを軽減できます」
「「「「!!!!!」」」」
女性貴族に対する救世主が降臨した瞬間だった。
ファーレンシアの手が震えているのを見て、シルビアは困惑した。
「ファーレンシア様?」
「……なんて素晴らしいの……」
「……え?」
「……あの地獄のような苦しみから解放されるのですか……?」
「そこまでですか?私も舞踏会用のドレス試着の時は、きつさに驚きましたが……」
「シルビア様が救世主に見えます」
ファーレンシアが涙ぐんで、シルビアの手を両手で包み込み、祈るように感謝を示した。
「……あの?」
「ありがとうございます」
強い謝意にシルビアは若干ひいた。下着でこんなにも感謝されるとは思わなかったからだ。
そもそもコルセットが苦しいものなら、なぜやめないのだろう。そのことが、シルビアの理解の範疇を超えていた。
地上の服飾文化の謎が深まった。奥が深い。
ちょっと第ニの専門分野として、足を踏み入れてみようか――そんな考えがシルビアに浮かんだ。
ファーレンシアが研究員服を試着してみせて、その上から着る長衣をどうするか、侍女達が頭を悩ませ始めた。
「お茶会の日程まで、それほどありませんから、身頃を分割して刺繍をほどこしましょう」
「色をどうしましょうか」
「お相手を圧迫させないように布地は淡い色合いがいいでしょうね。刺繍糸の色で自己主張を」
「カイル様とお揃いにするなら、刺繍のデザインも考慮しないと……アドリーの紋様をどこかにいれたいものです」
「エトゥールの精霊鷹の意匠も」
「あら、精霊獣のトゥーラ様の意匠もいれないと……」
少し離れた卓で休憩のお茶をしているファーレンシアとシルビアは、その様子を見守った。
だが、今、妙な発言を聞いたような気がする。シルビアは眉を顰めた。
「トゥーラ様……」
「トゥーラはアドリーの侍女達に大人気ですよ。喋るウールヴェと会話できる機会などそうありませんから」
「それにつけ込んで、お菓子をねだっている姿が浮かびましたが、気のせいでしょうか?」
「あ、ありえるかもしれません」
「まったく、あの食欲魔獣は……」
はあ、と呆れたようにシルビアを息をつく。ファーレンシアはそんなシルビアにお礼を告げた。
「ありがとうございます、シルビア様」
「はい?」
「茶菓子の試食会と今回の服の件で、アドリーの侍女達と馴染めそうです。御前試合から、なし崩しに滞在が延長していましたから、ちょっと彼女達の距離を測り兼ねていました」
「お役にたてて何よりです。また試食会をしましょう」
シルビアがにっこりと微笑んだ。
「それにしても不思議な衣服です」
ファーレンシアはしみじみと今、自分が着ている研究員服を見下ろし、手触りとかを確認している。
「動きやすいし、快適ですし、メレ・アイフェスの技術は素晴らしいですね」
「開発理由は単純ですけどね」
「はい?」
「着のみ着のまま、おまけに食生活を蔑ろにする馬鹿な研究員の健康管理のために開発されたらしいです」
「……………………」
ファーレンシアは唖然とした。
「けんきゅういん――あの……メレ・アイフェスのことですよね?」
「はい」
冗談かと思ったが、カイルが不眠不休で大災厄の絵を描いて、病みかけた事実をファーレンシアは思い出した。
ありうる……。
メレ・アイフェスはたまに非常識だ。それに初代達も似たような気配があり、歌姫を独りで食事させていた。
――気をつけよう
ファーレンシアはカイルの健康維持のため、心に刻んだ。




