(45)再会⑮
「腹穴を開けられた相手に頼みに行くか。西の民では考えられない選択じゃ」
「アドリーに来た彼等に会いに行けと言ったのはお婆様じゃないか」
「もちろん、そう言ったさ。賭をして、会いにきたのはあっちじゃ。鼻をあかすにはいい機会だからのう」
「そういう目的だったの?!」
カイルはあっけにとられた。
「彼等は西の民の占者を舐めておった。たまには隠している爪を見せねば、な」
「まあ……そうかもしれない。エルネストは確かにお婆様の言葉に驚いていた。アードゥルはリードの安全の保証も西の民の占者の先見を提案してきたし」
「先手、先手で物事は有利に進む。お前さんは、盤上遊戯が下手じゃのう」
カイルはドキっとした。
滅びる文明を好き勝手に弄んだ盤上遊戯の指し手は、他ならね初代達だ。
「お婆様、それは……」
「どうせ馬鹿正直に、正面から挑むつもりだろう」
「うっ……」
「まあ、よい。そういう攻略方法もあるだろう」
「いいの?お婆様」
「お前に腹芸はできない」
事実を西の占者は、鋭い刃物のごとく言った。
アドリーの書庫の隠し部屋の移動装置に行き、カイルは拠点に飛んだ。
待っていれば、拠点の稼働に気づいたエルネストが来るだろう、と予想していた。
いつものように居住区の長い廊下を抜け、中央の管理室に向かう。途中の個室から端末を拝借し、カイルは物品の在庫を確認した。
在庫リストに女性の研究員服を発見したカイルは、保管庫に向かった。
ファーレンシア用の研究員服で、アードゥル達の面会時の防護になるだろう。保険は何重にもあっていいし、カイルはシルビアとファーレンシアの安全の確保を怠るつもりはなかった。
保管庫で研究員服を探していると、入口付近で気配があった。
「何を探しているんだ?」
「女性用の研究員服とできれば、僕の分も。この間、アードゥルに穴を開けられたんだ。これぐらい許してくれるよね?」
エルネストの問いかけに、カイルは背中を向けたまま、答えた。
「それは悪かったな」
カイルは驚いて振り返った。エルネストの横には、アードゥルが立っていた。
「衣料は、一番奥のユニットボックスだ。私達には不用だったからな」
「…………ありがとう」
カイルの応答は、やや遅れたものになった。
男女の研究員服を回収すると、カイルは二人がまつ入口に戻った。
「……拠点を全壊させる危険性があるから、来ないんじゃなかったの?」
アードゥルはその言葉に顔をしかめた。
「お前は、意外とはっきり言うタイプだな?」
「いや……つい……」
「アドリーでの面会で、問題なかったから大丈夫だ」
さらっと物騒なことを言っている。カイルは冷や汗を感じた。
アードゥルは中央に向かって、すでに歩き出しており、エルネストはカイルに同情するかのように肩をすくめて見せた。
「ここに来たのは、研究員服の回収だけではないだろう?」
エルネストが廊下を歩きながら、カイルに助け船をだすかのように、問いかけた。
「う、うん。エルネストに会うつもりで……」
「例のウールヴェと連絡はとれたのか?」
「そう、そのことで」
中央にあるコントロールルームに到着すると、アードゥルはすでに椅子に腰を下ろしていた。特段、いらついた様子もなく静かだった。
拠点にアードゥル本人が姿を現すことは、カイルも想像しなかった。ナーヤも特段何も警告しなかった。警告が不要だからか、アードゥルの行動が先見ができない範疇なのか、カイルには何も判断出来なかった。
緊張しているカイルにお茶を入れてくれたのは、エルネストだった。
「まずは、君に詫びよう。先日といい、今回といいイレギュラー的に彼を連れてきたことを」
「私をイレギュラー扱いするな」
「君はイレギュラーそのものだろう」
アードゥルはエルネストを睨んだ。




