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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(35)再会⑤

夏休み自堕落中につき更新時間13:00代(断言)(開き直った!)

引き続きお楽しみください。

『君がウールヴェ達の子守りで発狂しないように、私が立候補しただけだ。どっちがよかったかね?』


「まあ、確かに……リード以外と上手くやれた自信はない」


 それが英断であったことを、ディムは認めた。


「それでリードは、僕達の思念を喰ってるの?」


『私は酒の方が好みだ』


「それはリードは食べないという意味かな?一般的な他のウールヴェは食うの?」


 カイルの念入りな突っ込みにリードはため息をついた。


『君は本当に誤魔化しがきかないな』


「誤魔化す大人が多すぎて、知恵がついた結果だよ」


 カイルの言葉に、なぜかリードのイカ耳度が増した。


「トゥ……僕のウールヴェはどうなの?」


『あの幼な子は、君の思念を喰って成長した典型例だ』


「成長したのは、僕が意識がなかったからだろう?世界の番人に囚われたのは、事故みたいなものじゃないか。あれがなければ、どうなっていた?」


『多少、成長がゆるやかであったろうが、遅かれ、早かれ変わらない』


「僕のウールヴェは、僕のせいで進化したと」


『幼な子自身がそう言ってただろう?なぜ信用してやらない』


 カイルは背後の白いウールヴェを振り返った。彼もリード同様にイカ耳になり、落胆していた。


「信用うんぬんなら、僕は信頼している。だが、この話は別だろう」


 ウールヴェのトゥーラの耳がピクリと反応した。


――僕 かいるに 信用されてる?


「信用している。お前は僕を裏切らない。だから、そこのリードより遥かに信頼している」


 ウールヴェのトゥーラの顔は喜びに輝くと、尻尾(しっぽ)が興奮のため高速回転された。

 が、反対にリードはその下克上(げこくじょう)に驚きの表情を浮かべた。


『待ってくれ、私が信用できないと言ってないか?』


「言ってる。僕は貴方と(きずな)があるわけじゃない」


『い、いや、全く、ないわけじゃなくてだね――』


「ない」


 カイルの容赦(ようしゃ)ない一言に、リードは硬直した。


――あ、(ちぢ)みそう。


「カイル、ストップだ」


 場外乱闘(じょうがいらんとう)を仕切る審判(しんぱん)のごとく、ディム・トゥーラはカイルを止めた。


「この空間に酒はないから、リードを回復させることができない。彼を(たた)きのめすのは、とりあえずそこまでだ」

(たた)きのめし足りない」

「だから、落ちつけ。俺との接触(コンタクト)が切れる可能性がある」


――あ かいるの方が 縮んだ


「縮んでない」


 カイルは無表情で答えた。


――パンパンに (ふく)らんで いたのに 縮んだ


「それは冷静さを取り戻した、って言うんだ。覚えとけ」


 珍しくディム・トゥーラが、ウールヴェの相手をして、教えた。


――覚えた


『カイルが私に対してこんなに不信感を募らせているとは、ショックだ』


 リードはまだ衝撃(しょうげき)から立ち直れていなかった。ブツブツとつぶやいている。


『どこで計算を間違えたんだろうか』


「なんの計算だ」


 ディム・トゥーラが突っ込む。


『私とカイルの信頼関係の構築(こうちく)についてだ』


「構築をしてたのか?」


『してた……つもりだったのに……』


「そもそも計算が必要な信頼関係って、どうなんだ」


 深く考えない発言をディム・トゥーラがしたが、次の瞬間、まるで断線したかのように空間が暗転した。






「ちょっと、待った!!切れたぞ?!!」


 ディム・トゥーラは驚き、リクライニング・シートから跳ね起きたが、心あたりの犯人の姿は視界に入らなかった。


「リード?」


 あたりを見回すと、いつぞやと同じ光景が展開していた。


 叡智(えいち)に満ち溢れていたはずのウールヴェは、(しかばね)のようにぐったりと床に横たわっていた。

 精神的瀕死(ひんし)に陥ったウールヴェは、栗鼠(りす)の一歩手前のサイズまでダウンしていた。


 だが、ディム・トゥーラには、何がリードにダメージを与えたのか、理解できなかった。


「リード?」


『すまない……一時間ほど黄昏(たそがれ)させてくれ……』


――なんてめんどくさい


 ディム・トゥーラは弟子入りを撤回すべきか、本気で悩んだ。

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