(18)対話②
「トゥーラ?」
カイルは自分のウールヴェに呼びかけたが、完全に気配は消失していた。あたりは静まりかえっている。出られない空間にカイルは一人取り残された状態だった。
カイルは諦めの吐息をつくと、今入手した情報の吟味を始めた。
番人の領域――『番人』とは何だろう?
どうやって自分を捕まえたのか。
多分、西の民との同調酔いで防御が落ちた時だな、とカイルは推測した。
番人はなぜか自分を餌にディムに接触しようとしている。
これが、わからない。彼は精神感応力は中央トップレベルの実力だ。だが、ファーレンシアも似たようなものだ。
ファーレンシアは大事だからダメというウールヴェの見解は、何か危険なリスクのある行動をとらせたいようにも思える。と、同時に『番人』はエトゥールの妹姫を気遣い、エトゥールの敵ではないことになる。
あの悪意があり、エトゥールを戦乱に追い詰めようと巧妙な策を弄す存在ではないようだ。
そもそも現実ではどのくらい時間がたっているのだろうか。考えたが答えはでなかった。
ウールヴェが多少会話ができ、この領域に出入りできるのなら、シルビアかファーレンシアと連絡を取ることはできるかもしれない。そう考えたが、ウールヴェとの経路は完全に遮断されていた。
ウールヴェとの交流が『番人』とやらにバレたのだろうか。
「――っ!」
いきなりの激痛とともに大量の映像が意識に流れ込んできた。それは明らかに時系列がめちゃくちゃだった。
エトゥールの街が作られていくかと思えば、次にはエトゥールの周辺の豊かな田園地帯が砂漠に近い荒野になっていた。
知らない男女が言い争いをしていた。
次にはウールヴェを肩に乗せた子供が砂漠を歩いている。
場面が次々とめまぐるしく変わっていく。カイルは目眩を感じた。周辺が暑くなり、急に冷えたりもしていく。
王都は消滅していた。
大地は凍りついていた。
飢えていく人々がいた。
疫病の蔓延で死を待つのみの人々がいた。
食糧をめぐり醜い争いが起きていた。
ファーレンシアもセオディアもアイリもミナリオも皆死んでしまった。
「――違うっ!」
ファーレンシアやセオディアは生きている。まだ生きている。
サイラス・リーがなぜか地上にいた。森で不気味な生き物と戦っている。
クトリ・ロダスが山を指差し何かを言っていた。
イーレが血まみれで倒れている。
森が燃えていた。
感情をあまり表さないシルビアが泣いている。
人も場面も時代も無秩序だった。
「僕に干渉するなっ!」
これは同調だ。強制的に他人が持っている膨大な情報が流れ込んでくる。カイルは身を守るため、遮断しようとしたが妨害された。
他人の記憶に侵食され、自我が犯されていく。
――このままだとまずいっ!
強烈な吐き気と頭痛が限界を示していた。先に待つのは自我の崩壊による発狂だ。
永遠に続くかと思われた映像はいきなり途切れた。
いないはずのディム・トゥーラが立っていた。
ディム・トゥーラが同調を遮断してくれたことは、間違いない。彼はゆっくりとカイルに近づいてきた。夢でも幻でもいい。それが信頼しているディム・トゥーラであることに、カイルはほっと息をついた。
「……ディム?」
ディム・トゥーラは座り込んでいるカイルの目の前まで来た。彼の姿は、夢とは思えないリアルさがあった。
次の瞬間殴られ、ウールヴェの予言は成就した。




