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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
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(18)対話②

「トゥーラ?」

 カイルは自分のウールヴェに呼びかけたが、完全に気配は消失していた。あたりは静まりかえっている。出られない空間にカイルは一人取り残された状態だった。

 カイルは諦めの吐息をつくと、今入手した情報の吟味を始めた。


 番人の領域――『番人』とは何だろう?


 どうやって自分を捕まえたのか。

 多分、西の民との同調酔いで防御が落ちた時だな、とカイルは推測した。


 番人はなぜか自分を餌にディムに接触しようとしている。


 これが、わからない。彼は精神感応力は中央トップレベルの実力だ。だが、ファーレンシアも似たようなものだ。

 ファーレンシアは大事だからダメというウールヴェの見解は、何か危険なリスクのある行動をとらせたいようにも思える。と、同時に『番人』はエトゥールの妹姫を気遣い、エトゥールの敵ではないことになる。


 あの悪意があり、エトゥールを戦乱に追い詰めようと巧妙な策を弄す存在ではないようだ。


 そもそも現実ではどのくらい時間がたっているのだろうか。考えたが答えはでなかった。

 ウールヴェが多少会話ができ、この領域に出入りできるのなら、シルビアかファーレンシアと連絡を取ることはできるかもしれない。そう考えたが、ウールヴェとの経路は完全に遮断されていた。

 ウールヴェとの交流が『番人』とやらにバレたのだろうか。


「――っ!」


 いきなりの激痛とともに大量の映像が意識に流れ込んできた。それは明らかに時系列がめちゃくちゃだった。


 エトゥールの街が作られていくかと思えば、次にはエトゥールの周辺の豊かな田園地帯が砂漠に近い荒野になっていた。


 知らない男女が言い争いをしていた。


 次にはウールヴェを肩に乗せた子供が砂漠を歩いている。


 場面が次々とめまぐるしく変わっていく。カイルは目眩を感じた。周辺が暑くなり、急に冷えたりもしていく。


 王都は消滅していた。


 大地は凍りついていた。


 飢えていく人々がいた。


 疫病の蔓延で死を待つのみの人々がいた。


 食糧をめぐり醜い争いが起きていた。


 ファーレンシアもセオディアもアイリもミナリオも皆死んでしまった。


「――違うっ!」

 ファーレンシアやセオディアは生きている。()()()()()()()


 サイラス・リーがなぜか地上にいた。森で不気味な生き物と戦っている。


 クトリ・ロダスが山を指差し何かを言っていた。


 イーレが血まみれで倒れている。


 森が燃えていた。


 感情をあまり表さないシルビアが泣いている。


 人も場面も時代も無秩序だった。


「僕に干渉するなっ!」


 これは同調だ。強制的に他人が持っている膨大な情報が流れ込んでくる。カイルは身を守るため、遮断しようとしたが妨害された。

 他人の記憶に侵食され、自我が犯されていく。


――このままだとまずいっ!

 

 強烈な吐き気と頭痛が限界を示していた。先に待つのは自我の崩壊による発狂だ。

 永遠に続くかと思われた映像はいきなり途切れた。




 いないはずのディム・トゥーラが立っていた。




 ディム・トゥーラが同調を遮断してくれたことは、間違いない。彼はゆっくりとカイルに近づいてきた。夢でも幻でもいい。それが信頼しているディム・トゥーラであることに、カイルはほっと息をついた。


「……ディム?」


 ディム・トゥーラは座り込んでいるカイルの目の前まで来た。彼の姿は、夢とは思えないリアルさがあった。




 次の瞬間殴られ、ウールヴェの予言は成就した。

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