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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(32)再会②

「余計なことを言うな」


『弟子が迷走している時には導くのが、師匠の務めだろう』


「師匠?」


 叡智(えいち)をつかさどるウールヴェは鼻高々に自慢した。


『ディム・トゥーラは、私の新しい弟子だ』


「……」


 カイルの混乱に拍車がかかった。何がどうしてどうなったら、そうなるのか?

 僕はディム・トゥーラに会いにきたつもりだったけど、実は日常でただ夢を見ているだけじゃないだろうか。


――うん、夢かもしれない。ウールヴェ嫌いのディム・トゥーラがリードの弟子になるなんて、ありえない展開だ。


 リードはカイルの混乱を読み取った。


『いやいや、私が買収したんだ』


「……どうやって?」


『地上の絶滅動物(エクスティンクト)のリストで』


 あいかわらずピンポイント爆撃がうまいウールヴェだった。


「それは……陥落(かんらく)するね……」

「失礼だ」

「事実、陥落(かんらく)しているじゃないか。しかも前回と同じパターン」


 ディム・トゥーラは聞こえないふりをした。


『さて、旧交を温めたところで、本来の問題にはいろうか』


 リードは進行を取り仕切った。


「そうだな、手紙の件で確認したいことが、山ほどある。イーレの嫁取りの件だが――」

「無事、ハーレイの(よめ)におさまったよ」

「無事って表現はおかしくないか?」

「そうかな?彼女は持参金として予定の10倍近くの土地を手にいれたよ」


 ディム・トゥーラはウールヴェに意見を求めた。


『西の民の価値観は強さだ。彼女ほど、西の地の協力を得ることに適した人材はないだろう』


「本来の土地の広さで、王都の5%の人口を動かす予定だった。アドリーで40〜50%の人口まで引き受けられそうなんだ」

「移住前後の食料問題はどうする?」

「それだよ」


 カイルは(うなず)いた。


「アドリーは辺境だけに、流通網は発展していない。先に商人を移住させるにしても、限界がある。アイデアが欲しい。野生のウールヴェの家畜化の案もでたけど、現実化は程遠い」

「家畜化だと?」

「野生のウールヴェの肉は美味(おい)しいんだ」

「送ってきた肉か?」

「そう、食べた?」

「食べた。なかなか、美味(うま)かった。面白いことに、温度と焼きたてのジューシーさが維持されていた」

「時間の経過や劣化はないと言うことか……」

「果物はなぜ送った?」

「なるべく現地の柔らかい果物を選んでみた。変形が認められないなら、破壊されるのは情報端末のような金属に限られるのでは、という仮説が成立するんじゃない?」

「検証が甘い。こちらから地上へ、と、地上からこちらへの破壊条件は同じとは、限らないだろう。無傷な情報端末をこちらに送ってみろ」


 カイルは不満そうな顔をした。


「クトリのもつ情報端末は貴重なんだよ?」

「拠点の残骸(ガラクタ)にいくらでも転がっているだろう」

「あ……なるほど。で、果物はね、クローン培養とかを検討してほしいんだ。高速培養できれば、食糧と飼料に転用できる」

「所長に相談してみよう」

「観測ステーションに戻れる目処(めど)は?」

「たった。手続き上の足止めだ」


 カイルの顔が喜びに輝いたが、途中の言葉に引っかかった。


「手続きって?」

「研究都市から差押えられて中央(セントラル)に資産管理が移った」

「はい?」

「で、老朽化を理由に解体業者に引き渡され、一部が個人によって買取された」

「はい?」


 カイルは首をかしげた。


「僕は、観測ステーションの話をしているつもりだったけど?」

「大丈夫だ。俺も観測ステーションの話をしている」

「差押えは、僕達がやらかしたからだよね?」

「いや、実は俺がやらかしたんだ」

「何を?」

「所長の怖い奥方(おくがた)のトラップを踏むという失態(ミス)を」

「怖いという修飾(しゅうしょく)がつくのは、『奥方(おくがた)』?『トラップ』?」


『「間違いなく『奥方(おくがた)』の方だ」』


 支援追跡者(バックアップ)とウールヴェは綺麗に声をはもらせた。


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