(32)再会②
「余計なことを言うな」
『弟子が迷走している時には導くのが、師匠の務めだろう』
「師匠?」
叡智をつかさどるウールヴェは鼻高々に自慢した。
『ディム・トゥーラは、私の新しい弟子だ』
「……」
カイルの混乱に拍車がかかった。何がどうしてどうなったら、そうなるのか?
僕はディム・トゥーラに会いにきたつもりだったけど、実は日常でただ夢を見ているだけじゃないだろうか。
――うん、夢かもしれない。ウールヴェ嫌いのディム・トゥーラがリードの弟子になるなんて、ありえない展開だ。
リードはカイルの混乱を読み取った。
『いやいや、私が買収したんだ』
「……どうやって?」
『地上の絶滅動物のリストで』
あいかわらずピンポイント爆撃がうまいウールヴェだった。
「それは……陥落するね……」
「失礼だ」
「事実、陥落しているじゃないか。しかも前回と同じパターン」
ディム・トゥーラは聞こえないふりをした。
『さて、旧交を温めたところで、本来の問題にはいろうか』
リードは進行を取り仕切った。
「そうだな、手紙の件で確認したいことが、山ほどある。イーレの嫁取りの件だが――」
「無事、ハーレイの嫁におさまったよ」
「無事って表現はおかしくないか?」
「そうかな?彼女は持参金として予定の10倍近くの土地を手にいれたよ」
ディム・トゥーラはウールヴェに意見を求めた。
『西の民の価値観は強さだ。彼女ほど、西の地の協力を得ることに適した人材はないだろう』
「本来の土地の広さで、王都の5%の人口を動かす予定だった。アドリーで40〜50%の人口まで引き受けられそうなんだ」
「移住前後の食料問題はどうする?」
「それだよ」
カイルは頷いた。
「アドリーは辺境だけに、流通網は発展していない。先に商人を移住させるにしても、限界がある。アイデアが欲しい。野生のウールヴェの家畜化の案もでたけど、現実化は程遠い」
「家畜化だと?」
「野生のウールヴェの肉は美味しいんだ」
「送ってきた肉か?」
「そう、食べた?」
「食べた。なかなか、美味かった。面白いことに、温度と焼きたてのジューシーさが維持されていた」
「時間の経過や劣化はないと言うことか……」
「果物はなぜ送った?」
「なるべく現地の柔らかい果物を選んでみた。変形が認められないなら、破壊されるのは情報端末のような金属に限られるのでは、という仮説が成立するんじゃない?」
「検証が甘い。こちらから地上へ、と、地上からこちらへの破壊条件は同じとは、限らないだろう。無傷な情報端末をこちらに送ってみろ」
カイルは不満そうな顔をした。
「クトリのもつ情報端末は貴重なんだよ?」
「拠点の残骸にいくらでも転がっているだろう」
「あ……なるほど。で、果物はね、クローン培養とかを検討してほしいんだ。高速培養できれば、食糧と飼料に転用できる」
「所長に相談してみよう」
「観測ステーションに戻れる目処は?」
「たった。手続き上の足止めだ」
カイルの顔が喜びに輝いたが、途中の言葉に引っかかった。
「手続きって?」
「研究都市から差押えられて中央に資産管理が移った」
「はい?」
「で、老朽化を理由に解体業者に引き渡され、一部が個人によって買取された」
「はい?」
カイルは首をかしげた。
「僕は、観測ステーションの話をしているつもりだったけど?」
「大丈夫だ。俺も観測ステーションの話をしている」
「差押えは、僕達がやらかしたからだよね?」
「いや、実は俺がやらかしたんだ」
「何を?」
「所長の怖い奥方のトラップを踏むという失態を」
「怖いという修飾がつくのは、『奥方』?『トラップ』?」
『「間違いなく『奥方』の方だ」』
支援追跡者とウールヴェは綺麗に声をはもらせた。




