(31)再会①
お待たせしました。
夏休みに突入しましたので、8/11から8/21まで、更新時間が7:00から12:00あたりになりそうです。
引き続きお楽しみください。
カイルは正直に言えば、怯えていた。
厳しい教師に怒られることが確定している生徒の心境だった。
ウールヴェとともにディム・トゥーラと接触できる精神領域を訪れることに、勇気を総動員する必要があった。彼に何を言われるか考えるだけでも恐ろしかった。
だが、精神領域で再会したディム・トゥーラは、カイルの予想に反して上機嫌だった。
「遅いぞ」
遅刻を責める言葉が再会の挨拶代わりになりつつあるような気がした。
「ごめん……。怪我をさせたから会うのが後ろめたかった」
「そんなことだろうと思っていた」
「怪我の具合はどう?」
「問題ないと言っただろう」
「大怪我をさせてごめん」
「あれは俺のミスだ。お前が気に病むことじゃない。それより、もっとマメに連絡に来い。手紙では齟齬がでる」
悩んでいたことをさらりと受け流されてカイルは複雑な気分に陥った。もっと深刻な展開を想像していたのに肩透かし状態に等しい。
「いや、そうじゃないでしょ?」
「何が?」
「お前と組むのは真っ平だ、とか、支援追跡者を辞退する、とか、俺は中央に帰還する、とか、もっとこう、僕に言うことがあるでしょ?」
「……なるほど」
ディム・トゥーラは腕を組み、カイルを見据えた。
「お前と組むのは真っ平だ」
「!」
「支援追跡者を辞退する」
「!!」
「俺は中央に帰還する」
「!!!」
ドン底に突き落とされたカイルをディムは非情にも、せせら笑った。
「お前、こんなことを俺に言わせたいのか?マゾめ」
「………………はい?」
「だいたい俺がそんなことを言うと想像することが、失礼極まりない」
「………………」
「そんなこと誰が言うか、バーカ。お前は一生、奴隷のように俺の支援追跡を受けてろ」
「………………」
ディム・トゥーラの傍にいるリードが失望したように首をふる。
『素直じゃない……あまりにも素直じゃない……』
「ほっとけ」
『ディム・トゥーラ、誰もが君のような鋼精神を持っているわけではない』
「知っている」
『知っているなら、カイルにはもう少し優しくだな――』
「ぶった斬った方が強く再生されるじゃないか」
『誰が筋肉成長論の話をしている』
「同じだろう」
カイルは精神領域にいるはずなのに、激しい脱力感と膝をつきたい衝動にかられた。
実際、彼は両膝をつき、両腕を伸ばしきり身体を支えた。会話の反芻に時間がかかる。
――ディム・トゥーラの結論は結局どれなんだ?!
『大丈夫だ、カイル。ディム・トゥーラは、未来永劫、君の支援追跡者だ。君の元を去ることはない』
「………………本当に?」
『本当だ』
「なんで、俺が目の前にいるのにリードに確認するんだ。さっきから、そう言ってるだろう」
「わかりにくいよっ!」
「わかりやすいだろうっ!規格外のお前を御せるのは、俺だけだ。それに異論があるのか?」
「いや、そうだけどさ?!」
「俺を信用していないお前が悪い」
カイルは再び縋るようにリードを見つめた。明らかにディム・トゥーラの態度についての解説を求めていた。カイルは半べそ状態に近かった。
『あー、つまりディム・トゥーラは、彼が支援追跡者を解消すると思い込まれた点を憤っている。それも、もっともな話だ。カイル・リード、なぜ、そう思った?』
「普通なら、大怪我をさせられた相手と二度と関わりたくないと思うじゃないか!僕はそれほどのことをやらかした!」
「お前がやらかすのは、昔からじゃないか」
『ディム・トゥーラ、それではフォローするどころか、崖から突き落としている』
「もちろん突き落としている。教育は必要だろ?」
『カイルは獅子の子じゃない』
「そうだな。獅子の子の方が学習能力が間違いなくある」
『すまない、カイル。このようにディム・トゥーラは拗ねている』
困ったようにリードは言った。




