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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(29)手土産⑤

 あまりにも常識がかけ離れた話に、ディム・トゥーラは頭をかかえた。どこまでが真実なのだろうか。


「……なぜ、俺にこの話をする?」


『知りたがったくせに、責められるとは心外だ』


「責めてはいないっ!責めてはいないぞ……多分……」


『多分――かね。まあ、いいが』


「この事実を知っているのは?」


『誰もいない』


「は?」


『地上の人間の寿命(じゅみょう)は恐ろしく短いし、こんなことを探究(たんきゅう)する物好きはいない。どうでもいいことに分類される』


「……どうでもいいこと……」


『この世界は(きび)しい。日々を生き抜き生活に追われる彼等には、こんな世の仕組みは瑣末(さまつ)なことにすぎない。彼等は心の支えとして、精霊という存在に祈る。いると信じて祈る。精神革命が起きていない彼等の思念エネルギーが世界に流れ、まずは世界の番人という概念(がいねん)をを生み出した。これは何ら不思議ではない』


「――」


 ウールヴェは少し視線を落とした。


『私が君に語った最たる理由は、世の中にもう一人くらい事実を知った人間がいてもいいのでは、と思ったからだ』


「エド・ロウ達は?」


『彼等も知らない』


「俺が語る相手とした選ばれた理由は?」


『カイルだ』


「カイル?」


『君は薄々気づいている。この世界の方が、カイルのような特異な存在にとって優しいことを』


「……………………」


『今はエトゥールの姫との婚姻(こんいん)を滞在の理由としているが、彼女がやがて死に、しがらみが無くなった時、帰還することは彼にとって幸せといえるだろうか?』


「……………………」


 ディム・トゥーラは黙り込んだ。

 まさにそれは、頭の片隅で生じていた命題だった。


『君の危惧は正しい。カイルの覚醒(かくせい)した能力は、実験対象(モルモット)として、自由を奪われる生活を余儀なくされるだろう。接触者も監視され、追跡される。その(かせ)のため、やがて誰もが彼を離れていく。彼に残されるのは孤独だ』


「地上に残っても孤独だ」


『案外そうでもないんだな、これが』


 茶化すように、リードは軽口をたたいた。


『彼がこの短期間で縁を結んだ人物達の子や孫の世話に奔走(ほんそう)する姿が目に浮かぶ』


「それは先見か?」


『いや、彼の人たらしと、お人好しを掛け合わせた理論値だ』


「……確定未来じゃないか」


『そうともいう。そのカイルの支援追跡者(バックアップ)である君には、すべてを知ってもらい、広い視野で物事を判断してもらいたかった。だから話した』


「俺に何を期待しているんだ」


『わかっているくせに。君は本当にツンデレだな』


 カイルの手紙で再度叩こうとしたディム・トゥーラの行為は、またしても空振りに終わり、舌打ちする結果となった。


『だが、全ては大災厄を切り抜けてからの話だな。私も、真実を伝授した君も、あっさり死ぬかもしれない。それを回避したければ、初代達を受け入れたまえ』


「別に死ぬのは怖くない」


『カイルが嘆き悲しむ。支援追跡者(バックアップ)失格だ。それこそ「死ぬほど後悔する」からやめておいた方がいい』


 うっ、と正論な攻撃にディム・トゥーラは(うめ)いた。


「まだ聞きたいことがある。カイルが衛星軌道上から拉致(らち)られたことだ。なぜ、彼だったんだ?」


『彼がキーパーソンだったからだ』


「なんだって?」


『事実、地上は彼を中心に動き出した。エトゥールの戦争による敗北を回避し、西の民を救出し復讐(ふくしゅう)にまみれた未来を阻止し、東国(イストレ)の惨劇を封じた。だが、それを成し得たのは世界の番人ではなく、人々の選択だ。カイルと君を番人の領域に引きずりこんだのも、そもそも君が救出にこなければ成立しなかった対話だ。君は観測ステーションに残留した。その選択が生み出した未来が、今だ』


「俺の選択が正しかったということか?」


 リードは面白そうな顔をした。


『正しかったかどうか、誰が判断するのかね?誰も判断しえない。あえていうなら、その時点で最善の行動を選択した、って表現かもしれない。世の中には正しい行動なんて存在しない』


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