(29)手土産⑤
あまりにも常識がかけ離れた話に、ディム・トゥーラは頭をかかえた。どこまでが真実なのだろうか。
「……なぜ、俺にこの話をする?」
『知りたがったくせに、責められるとは心外だ』
「責めてはいないっ!責めてはいないぞ……多分……」
『多分――かね。まあ、いいが』
「この事実を知っているのは?」
『誰もいない』
「は?」
『地上の人間の寿命は恐ろしく短いし、こんなことを探究する物好きはいない。どうでもいいことに分類される』
「……どうでもいいこと……」
『この世界は厳しい。日々を生き抜き生活に追われる彼等には、こんな世の仕組みは瑣末なことにすぎない。彼等は心の支えとして、精霊という存在に祈る。いると信じて祈る。精神革命が起きていない彼等の思念エネルギーが世界に流れ、まずは世界の番人という概念をを生み出した。これは何ら不思議ではない』
「――」
ウールヴェは少し視線を落とした。
『私が君に語った最たる理由は、世の中にもう一人くらい事実を知った人間がいてもいいのでは、と思ったからだ』
「エド・ロウ達は?」
『彼等も知らない』
「俺が語る相手とした選ばれた理由は?」
『カイルだ』
「カイル?」
『君は薄々気づいている。この世界の方が、カイルのような特異な存在にとって優しいことを』
「……………………」
『今はエトゥールの姫との婚姻を滞在の理由としているが、彼女がやがて死に、しがらみが無くなった時、帰還することは彼にとって幸せといえるだろうか?』
「……………………」
ディム・トゥーラは黙り込んだ。
まさにそれは、頭の片隅で生じていた命題だった。
『君の危惧は正しい。カイルの覚醒した能力は、実験対象として、自由を奪われる生活を余儀なくされるだろう。接触者も監視され、追跡される。その枷のため、やがて誰もが彼を離れていく。彼に残されるのは孤独だ』
「地上に残っても孤独だ」
『案外そうでもないんだな、これが』
茶化すように、リードは軽口をたたいた。
『彼がこの短期間で縁を結んだ人物達の子や孫の世話に奔走する姿が目に浮かぶ』
「それは先見か?」
『いや、彼の人たらしと、お人好しを掛け合わせた理論値だ』
「……確定未来じゃないか」
『そうともいう。そのカイルの支援追跡者である君には、すべてを知ってもらい、広い視野で物事を判断してもらいたかった。だから話した』
「俺に何を期待しているんだ」
『わかっているくせに。君は本当にツンデレだな』
カイルの手紙で再度叩こうとしたディム・トゥーラの行為は、またしても空振りに終わり、舌打ちする結果となった。
『だが、全ては大災厄を切り抜けてからの話だな。私も、真実を伝授した君も、あっさり死ぬかもしれない。それを回避したければ、初代達を受け入れたまえ』
「別に死ぬのは怖くない」
『カイルが嘆き悲しむ。支援追跡者失格だ。それこそ「死ぬほど後悔する」からやめておいた方がいい』
うっ、と正論な攻撃にディム・トゥーラは呻いた。
「まだ聞きたいことがある。カイルが衛星軌道上から拉致られたことだ。なぜ、彼だったんだ?」
『彼がキーパーソンだったからだ』
「なんだって?」
『事実、地上は彼を中心に動き出した。エトゥールの戦争による敗北を回避し、西の民を救出し復讐にまみれた未来を阻止し、東国の惨劇を封じた。だが、それを成し得たのは世界の番人ではなく、人々の選択だ。カイルと君を番人の領域に引きずりこんだのも、そもそも君が救出にこなければ成立しなかった対話だ。君は観測ステーションに残留した。その選択が生み出した未来が、今だ』
「俺の選択が正しかったということか?」
リードは面白そうな顔をした。
『正しかったかどうか、誰が判断するのかね?誰も判断しえない。あえていうなら、その時点で最善の行動を選択した、って表現かもしれない。世の中には正しい行動なんて存在しない』




