(28)手土産④
『エトゥールを守りたい。大災厄を止めたい。本当に驚くべきほど、単純なものだ』
ディム・トゥーラは目を細めた。
『信じられない、という顔だな』
「カイルを拉致った」
ディム・トゥーラは、不機嫌に答えた。それが全ての始まりとも言えた。
『それについては、私もいろいろ興味深い突っ込みがあるんだが』
「………………どんな?」
『まず、君達が再来した。観測機械をことごとく壊した件だが、世界の番人にも言い分がある』
「言い分だと?」
『500年前に箱庭で散々遊んだ連中が再び現れたんだ。降下を阻止するのは当然だろう』
「………………」
『周囲を飛びまわるハエを落とすのは、自然な流れだ』
「……言い方……」
初代が箱庭にしていた事実は、当事者ではないにもかかわらず、ディム・トゥーラに後ろめたさをもたらしていた。リードの見解も納得がいくものであった。
『おっと、失礼。私はあくまでも代弁しているだけだし、これでも穏やかな表現を選択している。さて、君もとっくに気づいているだろう。世界の番人の誓約の一つの最たるものを』
「……人間を害することはできない」
『よしよし、ちゃんと気づいていたな』
ウールヴェは指導教官のような口調だった。
「降下したシルビアは無事だった」
『その通り。彼女は早い段階で仮説を論じていたことは知っている。中々の知恵者だ』
「……それで?」
『この大原則はかなり世界の番人に不利に働く。その意味はわかるかね?』
人間を害することができない――それが枷になるとは、なんとも物騒な話だった。
「世界の番人が人間を害したい時があるとでも?」
『君は眼下で無防備なカイルが無法者の集団に襲われても、冷静でいられるってことだな』
わかりやすいが露骨すぎる例だった。
「わかった。未成熟な世界における暴力に対する正当防衛的な話だ」
『君だったら、躊躇なく衛星軌道上から暴漢に向けてレーザービームを放つだろうな』
図星であり、ディム・トゥーラは否定をせず視線をそらした。
『世界の番人がヤキモキする枷の一つだ。警告は出せても、彼自身が武力行使ができるわけではない。どうしたらいいと思う』
「カイルみたいに専属護衛を雇えばいいだろう」
『順当な発想だ』
リードは満足そうに頷いた。
『そのために生み出されたのが、ウールヴェだ』
ディム・トゥーラは、ぽかんとした。
「あの獣が――いや、待て、生み出した?!」
『ああ、そこは言葉のアヤだ。作り出したでもいい』
「意味は変わらんぞ?!」
『そうかね?沢山の便利機械を開発するのと、なんら変わりはない』
「いや、違うだろ?!」
『いや、同じだ。無機物か有機物かの差だ。根底にある理由は変わらない。便利だから作った、必要だから作った、省略するために作った、発展のために作った――』
「まてまてまてまて」
両手をあげてディム・トゥーラはリードを制した。
情報量が多すぎて混乱の極みだった。
リードは素直に黙っている。
「………………いろいろ突っ込みがある」
『そうだろうとも』
「…………姿を変えられるのは?」
『その方が便利だからだ』
「いや、遺伝子情報は?!」
『道具に遺伝子など不必要だ』
「野生のウールヴェは?!」
『あれは、飢饉時の非常食として生み出したが――正直に言おう。失敗作だ』
「失敗作……」
『ご存知の通り、本能のまま暴走する』
「だったら回収しろよ?!不良品のリコールは生産者の義務だろう?!」
『その前に、「そういうもの」と世間に認知されてしまった。肉は美味いのに残念だ』
「野放しか?!」
『致し方なし』
あっさりとリードは放置を宣言した。
『ウールヴェ狩の文化が根付いたため、回収は不可能だ』




