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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(28)手土産④

『エトゥールを守りたい。大災厄を止めたい。本当に驚くべきほど、単純なものだ』


 ディム・トゥーラは目を細めた。


『信じられない、という顔だな』


「カイルを拉致(らち)った」


 ディム・トゥーラは、不機嫌に答えた。それが全ての始まりとも言えた。


『それについては、私もいろいろ興味深い突っ込みがあるんだが』


「………………どんな?」


『まず、君達が再来した。観測機械をことごとく壊した件だが、世界の番人にも言い分がある』


「言い分だと?」


『500年前に箱庭で散々遊んだ連中が再び現れたんだ。降下を阻止するのは当然だろう』


「………………」


『周囲を飛びまわるハエを落とすのは、自然な流れだ』


「……言い方……」


 初代が箱庭にしていた事実は、当事者ではないにもかかわらず、ディム・トゥーラに後ろめたさをもたらしていた。リードの見解も納得がいくものであった。


『おっと、失礼。私はあくまでも代弁しているだけだし、これでも穏やかな表現を選択している。さて、君もとっくに気づいているだろう。世界の番人の誓約(せいやく)の一つの最たるものを』


「……人間を害することはできない」


『よしよし、ちゃんと気づいていたな』


 ウールヴェは指導教官のような口調だった。


「降下したシルビアは無事だった」


『その通り。彼女は早い段階で仮説を論じていたことは知っている。中々の知恵者だ』


「……それで?」


『この大原則はかなり世界の番人に不利に働く。その意味はわかるかね?』


 人間を害することができない――それが(かせ)になるとは、なんとも物騒な話だった。


「世界の番人が人間を害したい時があるとでも?」


『君は眼下で無防備なカイルが無法者(むほうもの)の集団に襲われても、冷静でいられるってことだな』


 わかりやすいが露骨すぎる例だった。


「わかった。未成熟な世界における暴力に対する正当防衛的な話だ」


『君だったら、躊躇(ちゅうちょ)なく衛星軌道上から暴漢に向けてレーザービームを放つだろうな』


 図星であり、ディム・トゥーラは否定をせず視線をそらした。


『世界の番人がヤキモキする(かせ)の一つだ。警告は出せても、彼自身が武力行使ができるわけではない。どうしたらいいと思う』


「カイルみたいに専属護衛を雇えばいいだろう」


『順当な発想だ』


 リードは満足そうに頷いた。


『そのために生み出されたのが、ウールヴェだ』





 ディム・トゥーラは、ぽかんとした。


「あの(けもの)が――いや、待て、生み出した?!」


『ああ、そこは言葉のアヤだ。作り出したでもいい』


「意味は変わらんぞ?!」


『そうかね?沢山の便利機械を開発するのと、なんら変わりはない』


「いや、違うだろ?!」


『いや、同じだ。無機物か有機物かの差だ。根底にある理由は変わらない。便利だから作った、必要だから作った、省略するために作った、発展のために作った――』


「まてまてまてまて」


 両手をあげてディム・トゥーラはリードを制した。

 情報量が多すぎて混乱の極みだった。

 リードは素直に黙っている。


「………………いろいろ突っ込みがある」


『そうだろうとも』


「…………姿を変えられるのは?」


『その方が便利だからだ』


「いや、遺伝子情報は?!」


『道具に遺伝子など不必要だ』


「野生のウールヴェは?!」


『あれは、飢饉(ききん)時の非常食として生み出したが――正直に言おう。失敗作だ』


「失敗作……」


『ご存知の通り、本能のまま暴走する』


「だったら回収しろよ?!不良品のリコールは生産者の義務だろう?!」


『その前に、「そういうもの」と世間に認知されてしまった。肉は美味いのに残念だ』


「野放しか?!」


『致し方なし』


 あっさりとリードは放置を宣言した。


『ウールヴェ狩の文化が根付いたため、回収は不可能だ』

 

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