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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
541/1015

(25)手土産①

「……………………」


 すっかり馴染みになった白い狼に似た四つ足が現れたとき、ディム・トゥーラは失望のため息をついた。ウールヴェにカイルの意識は乗っていなかった。


「また、お前か」


――でぃむ・とぅーら 失礼すぎる


 ウールヴェははっきりと不満を述べた。

 使役主(カイル)は未だに接触してこないが、ウールヴェをよこす意志はあるらしい。引きこもられて、連絡が絶たれるよりはマシか、とディムは自分に言い聞かせていた。


 カイルの白い獣が背嚢(リュック)を背負っていた。まさか全部が報告書じゃないだろうな、とディムは警戒した。

 だが、中身は想像と遥かに、かけはなれていた。


 リュックを引き取り、開けると、香ばしい匂いが辺りにたちこめる。中身は大量の肉の串焼きだった。


「……………………」

「串焼きだな」

「串焼きね」


 エド・ロウ夫妻もでてきた中身を見て困惑をしている。


 意味不明の大量の串焼きが、背嚢(リュック)から出てきたとき、ディム・トゥーラは感情を抑えるために片手で顔を覆った。


「………………あいつは俺を舐めているのか?」

「ディム・トゥーラ、これは面白いぞ」

「串焼きの何が面白いんです」

「まだ温かい」

「――」

「腐敗もしていなくて、新鮮だわ」


 大胆にもジェニは串の1本を取り上げ、食した。


「あら、美味しいわね……」


 ジェニの毒味に次に手を伸ばしたのはエド・ロウだった。彼もすぐに平らげた。


「確かに美味い」

「妻を毒味役にするとは、離婚案件よ」

「止める間もなく、突然食べ始めたのは君だ」


 ディム・トゥーラは複雑な表情で上司を見つめた。


「ディム・トゥーラ、君も食してみるといい」


 上司命令に彼は渋々したがった。


「……肉だ」

「ディム・トゥーラ、それでは料理評論家になれないわよ」

「なるつもりはないので、安心してください。これはマンモス猪の肉じゃないか?」


 ディム・トゥーラは傍のウールヴェのリードに確認した。


『ご推察の通り』


――野生のウールヴェの肉だよ


「獣の空間移動で腐敗もせず、温かさも維持できる――時間が経過しないのか」


『うんうん、いい考察だ』


「……リード、ふざけているのか?」


『カイルのことで、頭を悩ましてストレスをためるより、建設的な脳の使い道を提案しているに過ぎない』


「まだあるわね」


油紙につつまれた肉の塊をジェニは取り出した。


「こちらは生肉ね、冷蔵保存しましょう。成分分析と遺伝子解析に回そうかしらね」


『普通は料理すると思うが』


「誰が?」

「俺がしましょう」


 ディム・トゥーラが串焼をしげしげと眺めながら、申し出た。


『意外だな。料理ができるのかね?』


「動物の解体、解剖は得意なんで」


『………………何か違う。絶対に違う』


「まだあるな」


 エドが風呂敷のように布で包まれた食材を取り出した。


「こちらは果物だ」

「……端末は潰れるのに果物は無事なわけですか」


 これはカイルの実験かもしれない。

 ディム・トゥーラには、そのように感じられた。


「これは貴方宛の手紙ね」


 やや無礼にもひったくるように紙をジェニから奪ったディム・トゥーラの反応に、皆が笑いをこらえた。

 ディム・トゥーラがアナログな手紙を食いいるように読みすすめた。


「会いにくると言ってます」


『それはよかった。君の精神の安定がはかられる』


「俺とリードに」


 リードの尻尾が太くなった。


「エルネスト以外に初代のアードゥルもリードとの対話を望んでいると」


 リードの尻尾の太さは最大記録を伸ばした。


「リード?」


『なんだろうか』


「なぜ、緊張を?」


『緊張――そう、緊張だな。間違いなく緊張している』


 リードは素直に認めた。


「理由は?」


『私に先見の能力がないからだ』


「いや、それは理由にならないような?」


『なるとも』

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