(17)対話①
――起キナイ
――起キナイ
――皆ガ 困ッテ イル
気持ちよく寝ているのに何かが邪魔をしていた。ザワザワしていて安眠妨害これ極まりだった。
――頑固ダ
――スゴク 頑固ダ
――ヨク 似テイル
――本当ニ ヨク 似テイル
――彼モ 頑固ダッタ
彼って誰だ?と、いうか五月蝿い。眠りたい。もう少し眠りたい。邪魔をしないでくれ。
――姫ガ 泣イテイル
――ズット 泣イテイル
ああ、ファーレンシアが泣いている。それはとても不本意だ。困る。一番困る。
――泣カセテ イルノハ オ前ダ
――オ前ガ 悪イ
――オ前ガ 悪イ
責めるくらいならどうすればいいのか教えてくれ。彼女を泣かしたくない。彼女は笑顔がいい。いつだって彼女の笑顔に癒された。
――起キロ
――起キロ
不意にカイルは目が覚めた。
覚めたと思ったが、そこは現実ではなかった。白い空間で何もない。まるで別世界に迷い込んだようだった。
なんだろう。ここは。
カイルはあたりを見回した。手がかりらしい物は何もない。
夢の中だろうか?
起き上がり、歩き出してみたが、際限がなくカイルは歩くことを諦め、その場に腰を下ろした。
さて、困った。
こんな経験は初めてだった。明晰夢かと思ったが違うようだ。さっきのザワザワうるさかった集団はなんだったのだろう。
――ウルサクナイ
――ウルサクナイ
――失礼ダ
――失礼ダ
――彼モ 失礼ダッタ
――ソックリ
――彼ニ ソックリダ
うるさかった集団が戻ってきてしまった。
カイルは顳顬をおさえ、息をついた。これが唯一の情報源っぽいが、子供がわいわい取り囲んでいるイメージだ。
思念がすごく幼いのだ。
「うるさいから、代表が喋って」
ザワザワとする。それはまるで話し合っているかのようだった。
代表が喋れとは難易度が高い要求だったのだろうか?
――ウルサクナイ
おっ、ザワザワしているが声は単発になった。
「よくできました。そのまま代表だけ喋って」
――ヨクデキル 代表
この意識は幼く、語彙が少ない。
うわー、情報を引き出すのにどのくらいかかるんだろう。カイルは気が遠くなった。とりあえず質問をしてみることにした。
「ここはどこ?」
――番人ノ領域
意外なことに答えが返ってきた。本当によくできる代表かもしれない。
「番人って何?」
――番人ハ 番人
前言撤回。
「なんで僕はここにいるのかな?」
期待しないで質問を投げる。
――番人 ガ 捕マエタ
なんですと?
「何で番人が僕を捕まえたの?」
今度は沈黙が長かった。
――…………餌?
回答内容も酷かったが、なぜ疑問形なんだろうか?番人が餌のために捕まえた。ちょっと救いのない内容だった。
「番人が僕を食べるのかな?」
――番人 ハ 食ベナイ
「じゃあ誰が食べる予定なの?」
――でぃむ・とぅーら
「はあ?!」
まさかの固有名詞がふってきた。
「ディム・トゥーラが僕を食べるのか?」
――食ベル? 食ベナイ? しるびあ ノ あいり ノ オ菓子?
意味が不明すぎる。カイルは考えこんだ。アイリのお菓子とシルビア。アイリのお菓子――シルビアが喜ぶもの。シルビアの袖の下――
「釣り餌か?!」
――釣ル 釣ル 絶対 食ライツク 大漁 大漁 絶対釣レル。
大漁なんて言葉をどこで覚えたんだ。そもそも観測ステーションにいるディム・トゥーラをなぜ釣るのか。
「なぜディムを釣るの?」
――でぃむ・とぅーら 強イ
ディム・トゥーラが強いのは精神感応だ。精神感応が強いから釣るらしい。
「まあ、中央のエリートだからね。でも強いならファーレンシアだってそうでしょう」
――姫 ダメ 姫 ダイジ
「ファーレンシアは大事で僕達は?」
――大事 ダケド 大事 ジャナイ
「……ひどい扱いだ」
カイルは脱力した。
「で、君たちは何かな?」
今度は沈黙が恐ろしく長かった。
――ヒドイ
すごく責められている。正体がわからないことを本気で悲しんでいる想念だ。
――ヒドイ
――頑固ダ
――ヒドイ
――しるびあ ノ方ガ 優シイ
――ヒドイ
――無関心
――頑固
――彼ハ ヒドクナカッタ
非難の嵐である。シルビアやアイリやディム・トゥーラをなぜか知っている存在だ。
――ヒドイ
――鬼 ダ
――鬼畜 ダ
「鬼だの、鬼畜だの、大漁とかいったいどこで語彙を仕入れて……ウールヴェか!」
――ヒドイ
「お前はトゥーラだな。ごめんごめん。悪かった」
――ヒドイ
「戻ったらアイリのお菓子をあげるから」
――許ス
アイリのお菓子は無敵だった。
「番人の領域から出たいんだけど?」
――ムリ
「そこをなんとか」
――餌 ダカラ ムリ
「ディム・トゥーラを釣るのは無理だ。彼はエトゥールにはいない」
――イル
「はい?」
――怒ッテイル 殴ル 絶対殴ル 殴ラレル。
「え?何その不吉な予言」
唐突にウールヴェ達の気配が消えた。




