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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
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(17)対話①

――起キナイ

――起キナイ

――皆ガ 困ッテ イル


 気持ちよく寝ているのに何かが邪魔をしていた。ザワザワしていて安眠妨害これ極まりだった。


――頑固ダ

――スゴク 頑固ダ

――ヨク 似テイル


――本当ニ ヨク 似テイル

――彼モ 頑固ダッタ


 彼って誰だ?と、いうか五月蝿(うるさ)い。眠りたい。もう少し眠りたい。邪魔をしないでくれ。


――姫ガ 泣イテイル

――ズット 泣イテイル


 ああ、ファーレンシアが泣いている。それはとても不本意だ。困る。一番困る。


――泣カセテ イルノハ オ前ダ

――オ前ガ 悪イ

――オ前ガ 悪イ


 責めるくらいならどうすればいいのか教えてくれ。彼女を泣かしたくない。彼女は笑顔がいい。いつだって彼女の笑顔に癒された。


――起キロ

――起キロ


 不意にカイルは目が覚めた。

 覚めたと思ったが、そこは現実ではなかった。白い空間で何もない。まるで別世界に迷い込んだようだった。


 なんだろう。ここは。


 カイルはあたりを見回した。手がかりらしい物は何もない。

 夢の中だろうか?

 起き上がり、歩き出してみたが、際限がなくカイルは歩くことを諦め、その場に腰を下ろした。


 さて、困った。

 こんな経験は初めてだった。明晰夢(めいせきむ)かと思ったが違うようだ。さっきのザワザワうるさかった集団はなんだったのだろう。


――ウルサクナイ

――ウルサクナイ 

――失礼ダ 

――失礼ダ

――彼モ 失礼ダッタ 

――ソックリ

――彼ニ ソックリダ


 うるさかった集団が戻ってきてしまった。

 カイルは顳顬(こめかみ)をおさえ、息をついた。これが唯一の情報源っぽいが、子供がわいわい取り囲んでいるイメージだ。

 思念がすごく幼いのだ。


「うるさいから、代表が喋って」


 ザワザワとする。それはまるで話し合っているかのようだった。

 代表が喋れとは難易度が高い要求だったのだろうか?


――ウルサクナイ


 おっ、ザワザワしているが声は単発になった。

「よくできました。そのまま代表だけ喋って」


――ヨクデキル 代表


 この意識は幼く、語彙(ごい)が少ない。

 うわー、情報を引き出すのにどのくらいかかるんだろう。カイルは気が遠くなった。とりあえず質問をしてみることにした。


「ここはどこ?」


――番人ノ領域


 意外なことに答えが返ってきた。本当によくできる代表かもしれない。


「番人って何?」


――番人ハ 番人


 前言撤回。

「なんで僕はここにいるのかな?」

 期待しないで質問を投げる。


――番人 ガ 捕マエタ


 なんですと?

「何で番人が僕を捕まえたの?」


 今度は沈黙が長かった。

――…………餌?


 回答内容も酷かったが、なぜ疑問形なんだろうか?番人が餌のために捕まえた。ちょっと救いのない内容だった。


「番人が僕を食べるのかな?」


――番人 ハ 食ベナイ


「じゃあ誰が食べる予定なの?」


――でぃむ・とぅーら


「はあ?!」

 まさかの固有名詞がふってきた。

「ディム・トゥーラが僕を食べるのか?」


――食ベル? 食ベナイ? しるびあ ノ あいり ノ オ菓子?


 意味が不明すぎる。カイルは考えこんだ。アイリのお菓子とシルビア。アイリのお菓子――シルビアが喜ぶもの。シルビアの袖の下――

「釣り餌か?!」


――釣ル 釣ル 絶対 食ライツク 大漁 大漁 絶対釣レル。


 大漁なんて言葉をどこで覚えたんだ。そもそも観測ステーションにいるディム・トゥーラをなぜ釣るのか。

「なぜディムを釣るの?」


――でぃむ・とぅーら 強イ


 ディム・トゥーラが強いのは精神感応(テレパス)だ。精神感応(テレパス)が強いから釣るらしい。

「まあ、中央(セントラル)のエリートだからね。でも強いならファーレンシアだってそうでしょう」


――姫 ダメ 姫 ダイジ


「ファーレンシアは大事で僕達は?」


――大事 ダケド 大事 ジャナイ


「……ひどい扱いだ」

 カイルは脱力した。


「で、君たちは何かな?」

 今度は沈黙が恐ろしく長かった。


――ヒドイ


 すごく責められている。正体がわからないことを本気で悲しんでいる想念だ。


――ヒドイ


――頑固ダ

――ヒドイ

――しるびあ ノ方ガ 優シイ

――ヒドイ

――無関心

――頑固

――彼ハ ヒドクナカッタ


 非難の嵐である。シルビアやアイリやディム・トゥーラをなぜか知っている存在だ。


――ヒドイ

――鬼 ダ

――鬼畜 ダ


「鬼だの、鬼畜だの、大漁とかいったいどこで語彙(ごい)を仕入れて……ウールヴェか!」


――ヒドイ


「お前はトゥーラだな。ごめんごめん。悪かった」


――ヒドイ


「戻ったらアイリのお菓子をあげるから」


――許ス


アイリのお菓子は無敵だった。

「番人の領域から出たいんだけど?」


――ムリ


「そこをなんとか」


――餌 ダカラ ムリ


「ディム・トゥーラを釣るのは無理だ。彼はエトゥールにはいない」


――イル


「はい?」


――怒ッテイル 殴ル 絶対殴ル 殴ラレル。


「え?何その不吉な予言」



 唐突にウールヴェ達の気配が消えた。

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