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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
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(16)同調②

 ファーレンシアは指示に従い、シルビアと交代して寝台の側の椅子に腰を下ろした。シルビアも新たに椅子を用意してその隣に陣取る。


『サイラス、部屋に鍵をかけろ。邪魔がはいると危険だ』


 サイラスはドアの鍵を下ろすとその位置に立った。専属護衛のミナリオとアイリは戸惑っているようだった。


「兄への報告は無用です」


 ファーレンシアが先手をうって二人に釘をさした。


「いったい何を……」

「メレ・アイフェスの指導のもと、カイル様を呼び戻しにいきます」

「危険ではないのですか?」


 ファーレンシアの元専属護衛であるアイリの問いに、ファーレンシアは自信ありげに答えた。


「問題ありません。ですから兄への報告は無用です。ここにいてください」


 再度、専属護衛達に釘をさした。

 シルビアは、権力を行使したファーレンシアの手がわずかに震えていることに気づいた。


『シルビア、姫君の身体を支えておいてくれ。絶対に離すな。いざとなったら姫だけでも逃す。シルビアはその脱出路になる』


「了解しました」


 シルビアはファーレンシアの身体に触れた。細い肩に腕をまわし体勢を整える。


『エトゥールの姫君、カイルの手を握ってくれ』


 ファーレンシアはすぐにカイルの右手を強く握った。

 ――カイル様、戻ってきてください


『――行く』


 合図の念話とともに軽い衝撃がきた。





 ファーレンシアは驚いた。指示のあった通りにしていたら、どこかに立っていた。間違いなくエトゥール城のカイルの部屋ではない。周囲が夢のようにぼやけている。


 だが、いつのまにか、すぐそばに茶色の髪と瞳の長身の男性が立っていた。


 兄と同じくらいの20代半ばの年齢かと思ったが、ファーレンシアはそれが間違っていることに気づいた。外見は若いが目が鋭すぎて、未熟さが皆無なのだ。メレ・エトゥールより遥かに年上であるに違いなかった。

 これは念話で自分に指示を与えた人物だ、とファーレンシアは気づいた。


「ファーレンシア・エル・エトゥールと申します」


 一礼して名乗る。


「ディム・トゥーラだ」


 部屋でウールヴェに命じた声だった。


「……トゥーラ……」


 カイルのウールヴェと同じ名前であることに気づいた。聞こえていた一連のやり取りの謎がとけた気分だった。

 察したファーレンシアの様子に男は深いため息をついた。


「ウールヴェについては忘れてくれ」

「あ……はい」


 短いやり取りだが、ファーレンシアの緊張はとけた。カイルがウールヴェに名前をつけた人物ならば、信頼できる。


「そうじゃない。あれは嫌がらせだ」


 ファーレンシアは自分の考えが筒抜けなことに驚いたが、彼の言葉に首をかしげる。


「嫌がらせ……ですか?」

「それを知ったら俺が怒ることは、わかっていたはずだ。それをあえてするとは、嫌がらせ以外の何物でもない」

「そうでしょうか?カイル様はよくウールヴェの名前を呼び、長々と話かけていました。エトゥールにいる不安を和らげていたようにも見えました。ディム様は、カイル様の信頼を得ているのでは、ありませんか?一番そばにいてもらいたかったのでは、と思いますが……」

「……」

「私は何をすればいいのでしょうか?」

「今、俺達はカイルの精神領域にいる。遮蔽(しゃへい)は、かけておくから危険はない」


 彼が指で額に触れると不思議なことに不安定さが消えた。ぼやけていた視界が一気に鮮明になった。


「シルビアの存在は感じられるか?」

「あ、はい……はっきりと」


 同じ規格外か、と彼はつぶやいたが、意味するところはファーレンシアにはわからなかった。


「シルビアに繋がったまま、ここにいて欲しい」

「わかりました」


 余計なことは問わない聡明さにディムは感心した。


「カイル様をお願いします」

「殴ってでも連れてくるから安心してくれ」


 返ってきた言葉は物騒だった。

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