(16)同調②
ファーレンシアは指示に従い、シルビアと交代して寝台の側の椅子に腰を下ろした。シルビアも新たに椅子を用意してその隣に陣取る。
『サイラス、部屋に鍵をかけろ。邪魔がはいると危険だ』
サイラスはドアの鍵を下ろすとその位置に立った。専属護衛のミナリオとアイリは戸惑っているようだった。
「兄への報告は無用です」
ファーレンシアが先手をうって二人に釘をさした。
「いったい何を……」
「メレ・アイフェスの指導のもと、カイル様を呼び戻しにいきます」
「危険ではないのですか?」
ファーレンシアの元専属護衛であるアイリの問いに、ファーレンシアは自信ありげに答えた。
「問題ありません。ですから兄への報告は無用です。ここにいてください」
再度、専属護衛達に釘をさした。
シルビアは、権力を行使したファーレンシアの手がわずかに震えていることに気づいた。
『シルビア、姫君の身体を支えておいてくれ。絶対に離すな。いざとなったら姫だけでも逃す。シルビアはその脱出路になる』
「了解しました」
シルビアはファーレンシアの身体に触れた。細い肩に腕をまわし体勢を整える。
『エトゥールの姫君、カイルの手を握ってくれ』
ファーレンシアはすぐにカイルの右手を強く握った。
――カイル様、戻ってきてください
『――行く』
合図の念話とともに軽い衝撃がきた。
ファーレンシアは驚いた。指示のあった通りにしていたら、どこかに立っていた。間違いなくエトゥール城のカイルの部屋ではない。周囲が夢のようにぼやけている。
だが、いつのまにか、すぐそばに茶色の髪と瞳の長身の男性が立っていた。
兄と同じくらいの20代半ばの年齢かと思ったが、ファーレンシアはそれが間違っていることに気づいた。外見は若いが目が鋭すぎて、未熟さが皆無なのだ。メレ・エトゥールより遥かに年上であるに違いなかった。
これは念話で自分に指示を与えた人物だ、とファーレンシアは気づいた。
「ファーレンシア・エル・エトゥールと申します」
一礼して名乗る。
「ディム・トゥーラだ」
部屋でウールヴェに命じた声だった。
「……トゥーラ……」
カイルのウールヴェと同じ名前であることに気づいた。聞こえていた一連のやり取りの謎がとけた気分だった。
察したファーレンシアの様子に男は深いため息をついた。
「ウールヴェについては忘れてくれ」
「あ……はい」
短いやり取りだが、ファーレンシアの緊張はとけた。カイルがウールヴェに名前をつけた人物ならば、信頼できる。
「そうじゃない。あれは嫌がらせだ」
ファーレンシアは自分の考えが筒抜けなことに驚いたが、彼の言葉に首をかしげる。
「嫌がらせ……ですか?」
「それを知ったら俺が怒ることは、わかっていたはずだ。それをあえてするとは、嫌がらせ以外の何物でもない」
「そうでしょうか?カイル様はよくウールヴェの名前を呼び、長々と話かけていました。エトゥールにいる不安を和らげていたようにも見えました。ディム様は、カイル様の信頼を得ているのでは、ありませんか?一番そばにいてもらいたかったのでは、と思いますが……」
「……」
「私は何をすればいいのでしょうか?」
「今、俺達はカイルの精神領域にいる。遮蔽は、かけておくから危険はない」
彼が指で額に触れると不思議なことに不安定さが消えた。ぼやけていた視界が一気に鮮明になった。
「シルビアの存在は感じられるか?」
「あ、はい……はっきりと」
同じ規格外か、と彼はつぶやいたが、意味するところはファーレンシアにはわからなかった。
「シルビアに繋がったまま、ここにいて欲しい」
「わかりました」
余計なことは問わない聡明さにディムは感心した。
「カイル様をお願いします」
「殴ってでも連れてくるから安心してくれ」
返ってきた言葉は物騒だった。




