(13)宴②
「これは、折れた剣を鍛治師が鍛えなおすような修繕を自然に出来るのか?!」
「変形や破断をしても、回復する性質を持った合金よ」
「すごいな、人に奪われたらどうする?」
「使えるのは私か、一番弟子だけよ。生体認証――持ち主を認識できるから、他人にはただの重すぎる棒で使いこなすことはできないのよ」
「せいたいにんしょう――つまりイーレ達だけにしか、振り回せないということか」
「サイラス?なんでサイラスなんだ?」
質問で突っ込んだのはカイルだった。
失言したとばかりにイーレが視線をそらした。その反応で、カイルはすべてを察した。
「ああ、なるほど。アードゥルに身柄を渡すつもりだったから、サイラスに形見代わりに残すことを計画していたのか」
カイルはイーレの両頬をつねりあげた。
「いひゃい、いひゃい」
「ああ、例の話だな」
事情に精通しているハーレイも顔をしかめた。
「西の地にも形見を残す風習があるから反対はしないが。俺が死んだら俺の剣はイーレのものだからな」
不吉な話題にメレ・アイフェス達はぎょっとした。
「そんな不吉なことを言わないでよ!」
イーレが悲鳴のように抗議した。
「不吉な――というが、イーレだって同じことを準備していただろうに。別に俺が反対しているのは、アードゥルに身柄を渡そうとしたことであって形見を準備することではない」
西の民の若長は淡々と語るが内容はとんでもなかった。
「アードゥルに若長の妻が殺された時の方が大問題だ」
「イーレが保身策としてエルネストに提案した件だよね?やっぱり復讐に走るの?」
カイルが尋ねると、ハーレイはうなずいた。
「もちろんだ。イーレは一つ勘違いしている。若長の妻が殺されれば、大災厄の前だろうが、後だろうが、民族大移動が起こりうる内容だ。イーレが勝手に自身をアードゥルに差し出せるものではないんだ」
「と、いうと?」
「西の民は一度できた縁を大事にする。今回の御前試合でわかると思うが、イーレは手合わせすることで他の氏族にも縁を結んでいる。アードゥルがイーレを殺せば、我々の氏族は地の果てまで追いかけるが、実は我々の氏族だけではない。イーレと縁を持った氏族が立ち上がる。若長の妻は、氏族の5番目に高い地位だからな」
「……5番目?」
「長、占者、若長、長の妻、若長の妻の順になる。今の長の妻は亡くなっているから、イーレは実質4番目だ。まあ、アードゥルも馬鹿ではないなら、いまやイーレには手をだせないだろう」
カイルはイーレを見た。
「……イーレ、そこまで計算してた?」
「……ハーレイ達が復讐に走る想定はしてても、西の民全体とは……私から申し出たにしても、ダメかしらね?」
「俺達、西の民がそれを許容するとでも?世界が滅びても、ごめんこうむる。縁を結ばせた精霊に対する冒涜だ」
「……ごめんなさい」
「だが、世界を救おうとするイーレの覚悟は理解できる。それ以外のことなら全面的に協力する」
イーレは小さなため息をついた。
「これは、アードゥルに協力の対価が払えないわね……。どうしようかしら」
「イーレ、その対価の支払い方法は禁止だと言ったよね。そういえば――」
カイルはイーレを睨みつつも、エルネストの言葉を思い出していた。
「エルネストはアードゥルの説得のために、リードとの対話を求めていた」
「リード?禁足地で降臨したウールヴェだな?今、どこにいるんだ?」
「天上のメレ・アイフェスであるディム・トゥーラの元に」
「なぜ、エルネストがそんなことを言い出したの?」
「恒星間天体の軌道変更方法の提案がリードによるものだって知ったら、対話してみたいって言い出したんだ」
「カイル、どうするの?」
「一応、トゥーラに手紙を託して、リードには要請済みだけど……」
「リードしだいってわけね」
対話を申し出たのはエルネストだけではない。リードは自分との対話を避けないだろうか、とカイルはやや不安になった。




