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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(10)御前試合⑩

 初っ端からイーレの技術は驚くものだった。


 ハーレイは手加減(てかげん)なしで切りつけた一撃をかわされたことにまず驚いた。

 まさか体をのけぞってバク転でかわされるとは思わなかった。身体の柔軟さと舞踊のような美しさがそこにあった。


 ハーレイはイーレの実年齢を知っていたが、それほどの年月があれば、武術と舞踊が融合できるのだろうか、と羨ましく感じた。


 地上の人間が到達できない領域に彼らはいる。まさに精霊の御使いだった。





 10分の休憩があっというまに過ぎ、二戦目が始まった。

 積極的に攻撃にでたのはイーレだった。

 連続的に喉元(のどもと)を狙って長棍を突き出す。手加減なしの早さだったが、ハーレイは剣で受け止め阻止した。


 カンコンカンコン。

 金属ぶつかりあいが、音楽のようにリズムを生み出す。

 不意に音が途絶えたと思ったら、イーレの姿が消えていた。

 彼女は上方に高く跳躍し、頭上からハーレイを狙う。





「イーレ……本気で()りにいってない?」

「本気を出さずにすむと思われていたとは、心外じゃな」

「いや、だって、お婆様、本当に先見で怪我人はでないんだよね?」


 あまりの激しさにカイルは再度、ナーヤに確認した。


「怪我人はでんよ」


 カイルは、ほっとした。


「死人は怪我人ではないだろう?」

「お婆様?!?!!」

「からかっただけじゃ」


 ケラケラ笑う老婆の冗談にカイルは精神的疲労を蓄積させた。





 イーレの攻撃は逆光を利用していた。

 ハーレイは本能的に後ろに飛び避けた。

 たった今、ハーレイがいた場所に着地したイーレは間髪いれず、足首を狙った地面すれすれを長棍で振り抜いた。


「うおっ?!」


 ハーレイは驚きの声をあげつつ、ジャンプで足元の攻撃をかわした。

 だが、次は上段の振り抜きがきた。

 ハーレイは、これも身体をくぐらせ、避けた。


「やるわね」


 楽しそうにイーレが舌で乾いた唇を湿らせる。


図体(ずうたい)がでかいのに、機敏だわ」

「褒め言葉か?」

「一応」

「楽しんでいるか?」

「最高!ウールヴェ狩りみたいっ!!」


 体勢(たいせい)を直してハーレイは剣を構え直した。


「……その基準はどうかと思うぞ」


 イーレの価値基準が、ウールヴェの肉が指標になりつつあることに、ハーレイは不安を覚えた。





 カイルは二人の試合から目を離せないでいた。

 拮抗(きっこう)した実力者の対決の中であっても、イーレは観客に飽きが来ない娯楽を提供していた。


 演舞のような美しい型を混ぜ、観客を魅了させていた。

 重いハーレイの攻撃でさえ、あざやかに受け流してみせた。

 まるで、長棍という武器を知らしめるための、パフォーマンス舞台だった。

 見ている女性達は、陶酔(とうすい)した表情でイーレの動きを追っている。


「長棍の戦闘文化が根付くな」


 ぼそりとナーヤが言う。


「女性の弟子入りが増えそうな気がする」

「それを狙っているんじゃろ」

「狙っているの?!」

「男が強さを価値基準にするなら、女が強くなればいい、って考えだ。理にかなっている」

「男女差の身体的不利はどうするの?」

「お嬢は今、不利かね?」

「あー」

「西の民の男は、若長より強いかね?」

「あー」

「意にそわぬ婚姻がきたときにイーレの弟子の女はこういえば、いい。『イーレ様より強い男じゃないと、イヤ』」

「それ、振られる西の地の男を増産していない?!」

「嫁取りの難易度はあがるな」

「西の地の文化を壊しているよね?!」

「男尊女卑が、かかあ天下になって、何が悪い?」


 とんでもない文化転換点が生まれようとしているが、試合に夢中になっている男達は気づいてない。


「よい賢者を寄越してくれた。礼を言う」


 未来が見えているであろうナーヤがにやりと笑った。


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