(10)御前試合⑩
初っ端からイーレの技術は驚くものだった。
ハーレイは手加減なしで切りつけた一撃をかわされたことにまず驚いた。
まさか体をのけぞってバク転でかわされるとは思わなかった。身体の柔軟さと舞踊のような美しさがそこにあった。
ハーレイはイーレの実年齢を知っていたが、それほどの年月があれば、武術と舞踊が融合できるのだろうか、と羨ましく感じた。
地上の人間が到達できない領域に彼らはいる。まさに精霊の御使いだった。
10分の休憩があっというまに過ぎ、二戦目が始まった。
積極的に攻撃にでたのはイーレだった。
連続的に喉元を狙って長棍を突き出す。手加減なしの早さだったが、ハーレイは剣で受け止め阻止した。
カンコンカンコン。
金属ぶつかりあいが、音楽のようにリズムを生み出す。
不意に音が途絶えたと思ったら、イーレの姿が消えていた。
彼女は上方に高く跳躍し、頭上からハーレイを狙う。
「イーレ……本気で殺りにいってない?」
「本気を出さずにすむと思われていたとは、心外じゃな」
「いや、だって、お婆様、本当に先見で怪我人はでないんだよね?」
あまりの激しさにカイルは再度、ナーヤに確認した。
「怪我人はでんよ」
カイルは、ほっとした。
「死人は怪我人ではないだろう?」
「お婆様?!?!!」
「からかっただけじゃ」
ケラケラ笑う老婆の冗談にカイルは精神的疲労を蓄積させた。
イーレの攻撃は逆光を利用していた。
ハーレイは本能的に後ろに飛び避けた。
たった今、ハーレイがいた場所に着地したイーレは間髪いれず、足首を狙った地面すれすれを長棍で振り抜いた。
「うおっ?!」
ハーレイは驚きの声をあげつつ、ジャンプで足元の攻撃をかわした。
だが、次は上段の振り抜きがきた。
ハーレイは、これも身体をくぐらせ、避けた。
「やるわね」
楽しそうにイーレが舌で乾いた唇を湿らせる。
「図体がでかいのに、機敏だわ」
「褒め言葉か?」
「一応」
「楽しんでいるか?」
「最高!ウールヴェ狩りみたいっ!!」
体勢を直してハーレイは剣を構え直した。
「……その基準はどうかと思うぞ」
イーレの価値基準が、ウールヴェの肉が指標になりつつあることに、ハーレイは不安を覚えた。
カイルは二人の試合から目を離せないでいた。
拮抗した実力者の対決の中であっても、イーレは観客に飽きが来ない娯楽を提供していた。
演舞のような美しい型を混ぜ、観客を魅了させていた。
重いハーレイの攻撃でさえ、あざやかに受け流してみせた。
まるで、長棍という武器を知らしめるための、パフォーマンス舞台だった。
見ている女性達は、陶酔した表情でイーレの動きを追っている。
「長棍の戦闘文化が根付くな」
ぼそりとナーヤが言う。
「女性の弟子入りが増えそうな気がする」
「それを狙っているんじゃろ」
「狙っているの?!」
「男が強さを価値基準にするなら、女が強くなればいい、って考えだ。理にかなっている」
「男女差の身体的不利はどうするの?」
「お嬢は今、不利かね?」
「あー」
「西の民の男は、若長より強いかね?」
「あー」
「意にそわぬ婚姻がきたときにイーレの弟子の女はこういえば、いい。『イーレ様より強い男じゃないと、イヤ』」
「それ、振られる西の地の男を増産していない?!」
「嫁取りの難易度はあがるな」
「西の地の文化を壊しているよね?!」
「男尊女卑が、かかあ天下になって、何が悪い?」
とんでもない文化転換点が生まれようとしているが、試合に夢中になっている男達は気づいてない。
「よい賢者を寄越してくれた。礼を言う」
未来が見えているであろうナーヤがにやりと笑った。




