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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(9)御前試合⑨

遅くなりました。本日の更新です。

お楽しみください。

 ハーレイは今、楽しくてしょうがなかった。


 拮抗(きっこう)した実力の持ち主がいないため、氏族の中では指導役に回ることが多かった。補佐役のヌアなどは、ハーレイの指導で技術に磨きがかかったが、それでもハーレイには及ばなかった。


 身体を(きた)えることは、かかさなかったが、実践の練習相手に欠く現状は不満だった。もっともその頃は不満より復讐心に(たぎ)っていたから、気づかなかったともいえた。


 その復讐心をカイルが取り除いてしまうと、好敵手(ライバル)の不在という現実に気づいてしまった。若長という地位についてからの任に追われて、多忙に過ごしつつも繰り返される日常は、どこか退屈だった。

 

 そこへある日、子供姿の導師(メレ・アイフェス)が降臨した。


 精霊の御使いであるはずの導師(メレ・アイフェス)は、破天荒(はてんこう)だった。12、3ぐらいの成人前の金髪、赤い瞳の外見で、その愛らしい外見からかけ離れた武芸の達人だったことも、ハーレイの周囲の人間も驚かせたし、魅了もした。


 西の地の価値観は武芸に秀でているか、否か、それにつきた。


 そこに前代未聞の女性の武闘家が現れたのだ。

 イーレという導師(メレ・アイフェス)がその価値観をことごとく粉砕していった。

 最初はハーレイの氏族内の道楽であった手合せは、噂が噂を呼び、外の氏族まで呼び寄せた。そして全ての挑戦者を()ぎ倒したのだ。


 代表として和議を交わしたハーレイとの手合せをメレ・エトゥールは禁じてしまった。確かにどちらが負けても遺恨(いこん)になりうるデリケートな時期があった。双方の国への和議の影響が読めなかったのが、理由でもあったのだろう。


 西の民は政治的影響に無頓着であったが、エトゥールではそうはいかない。メレ・エトゥールの思惑は理解できた。


 理解できたが――好敵手が目の前にいるのに、手合せが気軽にできないのは、大量の食事を目の前にしてお預けを食らうウールヴェのようだった。



 それがようやく解禁になったのだ。



 彼女の弟子であるサイラスと鍛錬(たんれん)したハーレイは、正確にイーレの実力を把握していた。

 サイラスも強かった。

 単独で野生のウールヴェを倒したというのは、嘘ではないだろう。彼が生み出した戦法で野生のウールヴェ狩りは格段に楽になって、その大量の肉は西の民の食生活を豊かなものにした。


 導師達は西の地に変化をもたらした。


 惜しげもなく、与えた井戸は、氏族間の争う理由を消失させた。西の地がまとめられつつあった。イーレの嫁取り挑戦は激化していたが、彼女自身が華麗にそれを阻止していた。ついでにウールヴェの肉という自分の欲望も満たしていた。


 エトゥール王を迎えての御前試合は、いまや異様な盛り上がりを見せていた。

 イーレがエトゥール王の庇護下にある賢者であることを、西の地に証明したし、ハーレイとの手合せを禁じていたのは、ハーレイの実力を恐れたからだ、との憶測をよんだ。


 イーレの持参金代わりの土地は膨れあがり、誰も気づかないうちに大災厄時のエトゥールの民の避難所をエトゥールに与えていた。

 それこそが、セオディア・メレ・エトゥールの狙いだろう。


 誰も世界を救う為に、エトゥールが犠牲になることを知らない。


 世界を救う選択をした賢王セオディア・メレ・エトゥールの前で試合ができるとは、誇るべき名誉だった。


「手加減したら承知しないわよ」


 イーレは前日の夜に、ハーレイにそう言った。


「手を抜けば、この御前試合の名誉は地に堕ちる。エトゥールと西の地の友好にもヒビが入る。私はそんなために、貴方と手合せするわけではないのよ」

「わかっている。手抜きなど一切しない」

「精霊に誓える?」

「精霊に誓おう。そちらも手加減するなよ」

「当たり前でしょ。貴方が手加減できる安い存在じゃないわ。手加減したらこちらが吹き飛ぶわよ」


 イーレの悪態に似た賞賛にハーレイは内心照れた。

 強者の真の賞賛ほど西の民を喜ばせるものはない。彼女が知らないでやっているなら、カイル以上の人たらしだ、とハーレイは思った。


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