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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(5)御前試合⑤

「難易度が高いって何?」

「世界の番人に心を開くことじゃ」


 それを聞いたとたんカイルは大量の毛虫を見たような、げんなりとした表情を浮かべた。ナーヤはその反応を予想していたようだった。


「……本当にそれが必要なの?」

「必要だ。だから難易度が高いって言ったじゃろ?おまえも頑固(がんこ)だからな」

「……別に頑固(がんこ)なわけでは」

「筋金入りの頑固(がんこ)じゃろ」

「――」


 ナーヤはカイルの顔をしばし見つめ、呆れたように(つぶや)いた。


「なんじゃ、エトゥールの姫と世界の番人の(きずな)()いているのか?」

「違うっ!」


 カイルは慌てて否定した。


「だが、エトゥールの姫が絡んでいるじゃろ」

「……………………」


 カイルは深い溜息をついた。占者に隠し通すことは難しい。彼はぽつりと本音をもらした。


「ファーレンシアは、世界の番人のせいで、身体が弱かった。大事な審神者(さにわ)なのに、遮蔽(しゃへい)も教えなかった世界の番人が腹立たしいし、許せない」


 カイルの言葉に、片眉をあげるとリルに向かって言った。


「ここに悪い見本がある。()れすぎて、エトゥールの姫が世界の中心になっておる。こういうのは、よくない。覚えておき」

「子供相手に何を教えているの?!」


 カイルが真っ赤になって抗議する。リルは何杯目かの果汁を飲みながら冷静に答えた。


「でもお婆様、あたし、カイル様の気持ちはわかるなあ。あたしの世界の中心はサイラスだもん」

「なんじゃ、お前さんも手遅れか。ほんに、メレ・アイフェスは人たらしの集団じゃな」

「あ、それ、あたしも思った。ファーレンシア様なんて、カイル様にベタ()れだよ?」

「ほうほう」

「当事者の前で、やめてくれっ!!」


 カイルの猛烈な静止に、ナーヤはクコ茶を啜った。


「仕方ない。メレ・アイフェスがこう言ってるから、続きは本人のいないところでだ」

「はーい」


 素直にリルは返事をする。それから彼女は少し首を傾げる。


「お婆様、審神者(さにわ)なんだよね?」

「そうじゃ」

「どうしてファーレンシア様は病弱で、お婆様は健康なの?」


 リルの質問にカイルは、ハッとした。もっともな疑問だったが、カイルはその点に思い当たらなかった。


「そういえば、そうだ。お婆様、なんで?」

「そりゃあ、あたしが西の民だからさ」

「意味がよく……」

「西の民は、子供の頃に狩の基本を叩きこまれる。弓矢、石投げ、森の歩き方、四つ目や獲物に対しての気配の消し方――」

「…………遮蔽(しゃへい)

「そうじゃ、誰に加護が現れようとも、基本は伝授される。それが西の民の強みじゃ。エトゥールではいつのまにか、その伝授が途絶えた。代々、エトゥールの審神者(さにわ)の姫が短命なのはそのためだ」

「――」

「お前が審神者(さにわ)になれば、姫の負担も減るというのに、この頑固者が」

「……ファーレンシアの負担が減るなら、前向きに考える」


 ファーレンシアの健康が絡むと知って、ころりと態度を変えたカイルに、ナーヤは半眼になった。


「世界の番人が言った通りじゃのう」

「世界の番人がなんと言ったって?」

「お前を御するには、エトゥールの姫を持ち出すといい、と」

「そういうことを言うから、アイツが嫌いなんだよっ!!」


 カイルの暴言は、ナーヤの木盆の顔面直撃で制裁(せいさい)された。

 痛みに顔を抑えるカイルにナーヤは叱責(しっせき)した。


「学習能力がないとも言っていたな。西の地では世界の番人に対する不敬はあたしが許さぬ。いい加減覚えろ」


 リルが床に転がる木盆を拾いあげ、ナーヤに差し出した。


「お婆様、すごい。その木盆投げ、あたしもマスターしたい」

「伝授してやるぞ」

「やったー」


 リルのおねだりで殺伐(さつばつ)とした空気は緩和された。泣く子も黙るナーヤ婆と言われつつも、どうやら子供には甘いらしい。


「お嬢の弟子と同行でいいから、この子をちょくちょく西の地によこしな」


 ナーヤはカイルに命じた。


「貿易のため?」

「それもあるが、これからは先の読めぬ動乱の時代になる。護身を覚えさせた方がよい」


 カイルは驚きの声をあげた。


「先が読めない?お婆様の先見ができないというの?嘘でしょ?」

「……お前はあたしをなんだと思っているんじゃ」


 はあ……と、ナーヤが息をつく。

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