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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第16章 精霊の恩恵
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(2)御前試合②

「では、私はハーレイ殿に賭けよう」

「損はさせない」


 ハーレイはニヤリと笑って言った。

 その言葉にメレ・エトゥールは専属護衛から金の入った皮袋を受け取って、金貨を1枚取り出して若長に預けた。

 ハーレイは賭け札を交換しに行った。


「メレ・エトゥール、ハーレイに賭けたら、ハーレイが勝ったとき、エトゥール側の八百長(やおちょう)を疑われないかなあ?」


 カイルはメレ・エトゥールの選択に慌てた。


「若長は八百長(やおちょう)を受け入れる御仁(ごじん)か?」

「そんなことは絶対にないけど」

「では大丈夫だ。カイル殿も賭けたらどうだ?」


 カイルは首を振った。


「無事に終わるまで気が安まらない」

「意外に小心だな?」

「貴方が図太いんだよ」


 メレ・エトゥールと賢者のやりとりに、控え立つ専属護衛達は笑いを耐え、肩を小刻みに震わせた。


――かいる 連れてきたよ


 トゥーラが空間を跳躍(ちょうやく)して、現れた。

 その背中にいるのは、サイラスと彼の養い子のリルだった。


「トゥーラ、お疲れ様。アイリから菓子をもらうといい」


 カイルの言葉にトゥーラは尻尾を大振りした。



「メレ・エトゥール」


 リルはトゥーラの背から降り立つとその場にいるメレ・エトゥールに正規の礼を優雅に自然な身のこなしでした。対照的にサイラスは不遜(ふそん)に軽く頭を下げただけだった。


「サイラス殿、リル嬢、よく来た。席はそちらに用意している」


 メレ・エトゥールは天幕の中の座席を示す。シルビアとファーレンシアがすでに腰を下ろし談笑をしている。

 サイラスはカイルを見つめてきた。カイルはそれだけで彼が何を求めているか察した。


「もちろん、好きな場所で見てもいいよ」

「そうさせてもらう」


無意識ともいえる動作で、サイラスは傍にいるリルを片腕に抱き上げた。

 御前試合の会場の説明をするため、カイルはサイラス達を従えて天幕の外に出た。外は西の民で満ち溢れており、サイラスはその(にぎ)わいに眉をひそめた。

 カイルが比較的すいているハーレイの陣営側を指差し、サイラスはそちらで見学することに同意した。


「カイル様、トゥーラのお迎え、ありがとう」

「ウールヴェの伝言をもらったとき、びっくりしたよ。まだエトゥールにいるなんて。てっきり移動装置(ポータル)で精霊の泉経由でこちらに向かっていると思い込んでいたから」

「サイラスが優柔不断(ゆうじゅうふだん)なの」


 養い子の訴えに、サイラスは反論した。


「別に行くか行かないか結論を出せなかっただけだ」

「それを優柔不断(ゆうじゅうふだん)と言ってるの」

「来ない選択があったのかい?」

「――」


 カイルの突っ込みにサイラスは黙り込んだ。解説したのは、リルだった。


「イーレ様が負ける姿を見たくないんだって」

「サイラスはイーレが負けると予想しているのか」

「言っただろう?イーレは強い男に弱いって」

「いや、あれは好みの男性の特徴(タイプ)の話だろう?」

「サイラスが言うには、相手に敬意を表して、体内チップを止めちゃうんだって」


 カイルはギョッとした。リルが体内チップの件を認識していることも驚きだった。だが、それ以上にイーレがするであろう選択に驚いた。


「なんで、また……」

「疲労無効なんてインチキ技術の頂点じゃないか。イーレは対等にやり合うことを絶対に選ぶぜ?」

「……ありうるな」


 カイルはイーレの控室がわりの小さな天幕を見た。


「試合前に会っておくかい?」


 サイラスは頷いた。




 

「イーレ、入ってもいいかい?」

「どうぞ」


 カイルが天幕の中に声をかけると、すぐ反応があった。

 入口の布をあげ中に入ると、イーレは手にテーピングがわりの薄布を巻き付けているところだった。

 イーレはカイルの背後に弟子とその養い子の姿を見ると、笑いを()み殺した。


「遅いわね。どうせ、見たくないって、リルを困らせたんでしょ」


 師匠(ししょう)の見事な見破りにサイラスは、カッと頬を染めた。


「なんで、わかるんだよ」

「何年、貴方の師匠をやっていると思っているのよ」

「イーレの年齢から比べれば、微々たる期間だろう」


 禁句の返礼は木の盆だった。避ける間もなく、サイラスの顔面を直撃した。


「イーレ、投げ方がナーヤお婆様にそっくりだ」

「彼女に伝授してもらったわ」

「サイラスの動体視力を凌駕(りょうが)するなんて」

「師匠として当然でしょ」


 何事もなかったように、イーレは準備を続ける。


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