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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第15章 精霊の代価
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(59)閑話:メレ・エトゥール⑥

「私のウールヴェが、トゥーラ並みに成長してくれれば、かなり移動は楽になるだろうな。どうだ、トゥーラ?」


――うん 楽になる


「お前も一人より仲間と移動の方が楽しいだろう?」


――うん 楽しい


「主人が了承すれは、それも可能だ」


――本当?


 中型犬の大きさになって、犬を装っているトゥーラがジッと期待に眼を輝かせて見つめてくる。


「メレ・エトゥール、卑怯(ひきょう)なっ!!」

「何がだ?」

「僕のウールヴェを共犯に誘う道具に使わないでくれ!」

「立っている者は親でも使え、というならウールヴェを使ってもいいではないか」

「用法が微妙に違うっ!」


――だめなの?


 トゥーラが首をかしげてきく。

 犬のふりをしているので、愛らしさが加算され、おねだりが凶悪さを増していた。これを拒否したら外道(げどう)といわんばかりのプレッシャーだった。


「カイル殿もまだ知らない街が多数あるだろう?」

「ううっ……」

「興味深い異文化の片鱗(へんりん)がそこに存在している」

「……」

「新しい発見もあるに違いない」

「……」

「失われる文化を記憶できるのはカイル殿だけだ」

「……」

「復興には必要不可欠な情報だ。そう思わないか?」


 悪魔だ。悪魔がここにいる。

 誘惑を(たく)みに大義名分に変換する悪魔――いや、魔王に違いない。


「……護衛も連れないでお忍びは危険だ」


 カイルは最後の抵抗を試みた。


「私は剣技に自信があるし、ウールヴェが二匹になれば、戦闘力もあがるだろう?いざとなれば、空間を渡り逃げればいい。普通のお忍びよりはるかに安全だ」

「ううっ……」

「カイル殿が不安なら、ハーレイ殿に鍛えてもらえばいい」

「……」

「珍しい古書もあるかもしれないな」


 カイルは悪魔に身売りした。





「まあ、メレ・エトゥール。予定よりお早い到着ですね?」


 アドリーで到着を出迎えたシルビア達や専属護衛達の姿と言葉に、カイルは目を()いた。


――()()()()()()()()()だって?


 カイルは小声で隣に立つメレ・エトゥールに(ささや)く。


「どういう小細工?」

「小細工も何も、用事をすませてからの移動になるから到着は夜になる、とウールヴェで伝言を飛ばしてある」

「!!!!」

「心配性な周囲を安心させるのも、お忍びのテクニックの重要な一つだ」

「嘘をついて――」

()()()()()()()()()()()()()()()()?嘘はついていない」

「!!!!!!!」


 焼き菓子の袋を取り出すと、二つの背嚢(はいのう)は、トゥーラを使って先にカイルの寝室に運びこませてあった。物証を隠すことにも、抜かりはない。

 

「シルビア嬢、焼き菓子の手配に少々手間取ってしまった。美味しいと思う。お茶を楽しんでくれ」


 思わぬ手土産にシルビアの顔が喜びに輝く。シルビアは菓子袋を受け取ると、ファーレンシアを振り返る。


「では、皆でお茶をしましょう。侍女に用意をさせます」

「そうですね。お兄様、カイル様、お着替えを。用意ができたら侍女が呼びに参ります」

「では、またお茶の席で」


メレ・エトゥールは、専属護衛とともに滞在する客室に案内され、その場から立ち去っていく。

 先程までのヤンチャなお忍び行為を微塵(みじん)も感じさせない。いつもの品行方正なエトゥール王がそこにいた。


 しかし、お忍びのプロとは、存在していいのだろうか?

 カイルは、しばらくその事実に頭を悩ませた。だが、メリット、デメリットを吟味すると、メリットの方が遥かに大きかった。


 カイルはセオディア・メレ・エトゥールに弟子入りをする決意をした。


 

 


セオディア・メレ・エトゥールの弟子、爆誕。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

ブックマーク、評価、Twitterのフォロー等、読者の皆様がいることが投稿の励みになっております。ここまで続いているのも皆様のおかげです。感謝しています。

引き続き「エトゥールの魔導師」をお楽しみくださいませ。


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