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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
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(14)合流

「でも、よかった。城壁を越える手間がはぶけた」

「なんですって?」


 サイラスの言葉をきいたアイリ達が顔を()()らせる。

 サイラスは真夜中に城壁を越えて侵入する気だったらしい。

 無謀な計画にシルビアはため息をついた。しかもサイラスの特異な運動能力なら成功させるからタチが悪い。

 ファーレンシアが精霊の言葉を伝えてくれなければ、一騒動勃発(ぼっぱつ)していたのだ。シルビアはファーレンシアに深く感謝をした。




 無事に城への入場を果たしたが、サイラスとリルは最初に入浴を要求された。旅で埃にまみれていたのは確かで異存はなかった。

 リルの入浴はシルビアが引き受けた。サイラスと引き離されてリルが半べそをかいていたからだ。


「私はシルビアです。サイラスの友人です。あなたは?」

「……リル」

「リル、お風呂にはいりましょう。すぐにサイラスと会えますよ」


 子供はほっとしたようにうなずき、シルビアにしたがった。

 侍女達は埃まみれの子供を磨きあげる使命に燃えた。リルは素直だったが、耳飾りをはずされることにだけは抵抗した。シルビアは生体認証のイヤリングに気づいた。


「これは……」

「……あ……えっと……」

「サイラスがつけたのですね。大丈夫です、わかってます。でも周囲には内緒にしておきましょう」


 唇に1本指をたてる仕草がサイラスに似ており、リルはシルビアに対する信頼度をあげた。

 侍女に囲まれ、着たこともない豪勢な着替えを強制されたとき、リルはこの代金を要求されたら破産する、と恐怖に(おび)えた。がたがた震えるリルにシルビアが目線の高さをそろえて小声で問いかける。


「どうしました?」

「……あたし……服のお金…ない」


 シルビアは微笑んだ。


「お金の心配はいりませんよ。サイラスを連れてきてくれたお礼です」

「……本当?」

「本当です。さあ髪飾りを選びましょう」


 リルはほっとしたように、イヤリングと似合う髪飾りを選んだ。


 廊下ではシルビア達と同様の刺繍のはいった長衣(ローブ)に身をつつんだサイラスが待っていた。彼は長衣(ローブ)の上から剣帯をつけていた。


「サイラス」


 サイラスはかけよってきたリルを抱き上げた。


「ずいぶんとおめかしをしたんだな。お姫様みたいだぞ」

「えへへ」


 リルはサイラスの褒め言葉にまんざらでもなさそうだった。

 エトゥールの領主とその妹姫に挨拶のために謁見(えっけん)し、すぐにカイルの部屋に向かった。






 カイルの眠る部屋にたどりつくと、シルビアが堪えきれないように質問を投げた。


「どうして街にいたんですか?確定座標は中庭ですよ?」

「着地地点がずれたんだ」

「確定座標が狂うなんてありえないでしょう?」

「それがズレたんだよね。南に500キロ」

「500キロ⁈」


 話を聞いてシルビアは愕然とした。そんなリスクは考えたこともなかったのだ。自分がそんな目にあっていたら、死んでいたのではないだろうか?

 サイラスはシルビアにイヤリングを差し出し、それが何か察した彼女はすぐに身につけた。


『シルビア』


「ディム・トゥーラ!」


 一番連絡のとりたかった人物の声に、シルビアは感極まった。涙がこぼれそうになる。


「連絡が取れてよかった。私にはもうどうしていいかわからなくて……」


『よく、独りで頑張った。――その周辺の人間は?』


「信頼できます。私達の専属護衛とエトゥールの妹姫です」


 サイラスの視覚情報を見ていたディム・トゥーラは、絵の少女の姿にうめく。


――あの馬鹿は、あの時に姫さんと接触してたのか。


 確か強力な精神感応(テレパス)超遠隔遠視(クレヤボヤンス)の持主だとカイルは言っていた。理解できるかわからないが、会話はつつぬけ、もしかしたら自分の姿も認識されていると考えた方がいい、とディムは思った。


『状況は?』


「カイルが意識を取り戻しません」


『おかしいとは思っていた。何があった?』


「地上の人間と同調を。そのあとから目を覚ましません。ただの同調酔いかと思っていました」


『殴って叩き起こせ』


「試しましたが、だめでした」


 試したのか、と会話を聞いていたサイラスはカイルに同情した。なるほど眠っているカイルは、若干(じゃっかん)、片頬だけが赤かった。


「呼吸と脈は安定していますが、意識だけはどうにも戻らないのです」


『シルビアを経由して、カイルに接触していいか?』


「もちろんです」


 シルビアは寝台の(かたわら)の椅子に腰をおろし、意識のないカイルの手を握った。


『待ってくれ、シルビア。シルビアの意識に変なものがいるんだが』


「ああ、ウールヴェですね」

「ウールヴェ⁈」


 悲鳴に近い叫びがあがり、見るとサイラスとリルが壁まで退避し、ドン引きしている。


『なんでマンモス(いのしし)がいるんだ⁈』


「え?何の話です?マンモスでも(いのしし)でもありませんよ?」

「まさか、野生のウールヴェと遭遇したのですか?」


 会話の断片から察したファーレンシアが問いかける。護衛のアイリとミナリオが唖然としていた。

 壁際(かべぎわ)の二人がこくこくと頷く。


「……よくご無事で」

「ああ……やっぱりそういう代物(しろもの)なんだ……」

「でも、サイラスは倒し――」


 リルの口は素早くサイラスによって(ふさ)がれた。



 シルビアは自分のフェレットサイズのウールヴェにアイリの元に行くように命じた。シルビアの肩から消え、護衛の女性の元に移動したのを見て、またしても二人はドン引きし壁際(かべぎわ)にはりついた。


瞬間移動(テレポート)するのか⁈」

「ええ、私も最初は驚きました」


『――そうか、あのウールヴェは転移してきたのか』


「あ、なるほど。ディムの監視をくぐり抜けたのは、そのためか」


 野生のウールヴェの謎が半分とけ、納得する。

 再びシルビアと繋がろうとしたディムは、またしても変な存在を認識した。


『なんだ、その生物は……』


 カイルの枕元には割と大きめの白い獣がいた。顔が細長く狼に似ているが尾が複数ある。忠犬のようにカイルの枕元から微動すらしない。


「まさか、これも?」

「カイルのウールヴェです」


『おかしいだろ、それ!』

「おかしいだろ、それ!」


 サイラスとディムの声は見事にハモった。

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