表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第15章 精霊の代価
507/1015

(50)エピローグ

「メレ・エトゥール、迎えに来たよ」


 西の地の国境に近いアドリーにいるはずのカイル・メレ・アイフェス・エトゥールが執務室に現れ、セオディアは眉をひそめた。

 離宮の移動装置(ポータル)が起動した気配はなかった。それ以外の手段で移動してきたに違いない。

 青年の(かたわ)らには、白いウールヴェがいつものように従っていた。機嫌がいいのか、長い複数ある尻尾(しっぽ)が優雅にふられている。


「トゥーラは戻ってきたんだな」

「うん、その報告も兼ねて出頭(しゅっとう)したよ」

「……トゥーラの尻尾の数が増えているような気がする」

「え?あっ?本当だっ!!」


 カイルはトゥーラの形態(けいたい)を見て慌てた。メレ・エトゥールの指摘通り、トゥーラの尻尾は2本増えていた。


「いつのまにっ!!」

「……なぜ、主人が気づかない……」

「いろんなことがありすぎて、そちらに気をとられていたんだよ」


 カイルは、顔を赤らめて必死に言い訳をする。


――ひどい


 すかさず、ウールヴェが突っ込む。


 その声は、加護をもたない他の人間にも聞こえたらしく、執務室内に控えている専属護衛達が笑いをこらえ、肩を震わせている。


 不敬な態度ではあったが、この状況で笑うなと叱るのは困難だった。事実、セオディアもウールヴェの言葉に、笑いを漏らさないことに努力を要した。


「ところで、迎えに来たとは?」

「今日の午後には出立する予定だったんでしょ?長々と馬車に揺られてアドリーに移動するより、手っ取り早く移動しようよ」

「カイル殿……」


 セオディアは溜息をついた。


「エトゥールの代表者が、西の地の移動装置(ポータル)を使って、大量の護衛とともに出現することはよろしくないだろう。和議が吹っ飛ぶ」

「ああ、そうじゃないそうじゃない」


 青年は手を左右に振った。


「西の地の移動装置(ポータル)は使わないで、荷をつんだ馬車は護衛とともに通常の道をつかってもらう。メレ・エトゥールだけ僕と一緒に移動しようという提案」

「なんだと?」

「だってその方が時間を節約できて、有意義な余暇(よか)をすごせるでしょう?」

余暇(よか)…………イーレ嬢の手合わせを余暇(よか)扱いか」

「あれは余暇(よか)ではなくイーレ個人の道楽(どうらく)に等しいよ。僕の言う余暇(よか)とはアドリーをゆっくりと視察しながら、シルビア達とお茶を飲むことを指している」

「――」

「移動で一週間馬車の中で過ごす予定の時間を浮かせて、アドリーで過ごせばいいってこと」

「……アドリーの準備は?」

「前倒しに終えている。いつでもメレ・エトゥールを迎えられる」

「……アドリーの関係者に通達は?」

「すませてあるよ。もっとも口をぽかんとあけられて、固まっていたけど」

「それはそうだろう……」


 メレ・エトゥールは破天荒な新辺境伯に振り回されるアドリーの関係者に同情した。


「……専属護衛達は?」

「僕が何往復かすればいいだろうし、馬車の警護の人数は確実に減らせるよね?」

「……書も運べるか?」

「書?」

「移動中の馬車で処理をしようと思っていた草案がいくつかある」

「ファーレンシアが予想した通り、典型的な仕事中毒(ワーカーホリック)だね」

「わーかーほりっく?」

「僕達やメレ・エトゥールみたいに年中仕事をしていて、仕事をしていないと落ち着かない状態を指すんだよ。お望みなら御前試合終了後、すぐにエトゥールに送ってあげるから、一週間くらい放置してみたら?」

「エトゥール王としてあるまじき行為だ」

「未来の王妃を口説くこともエトゥール王の仕事だよ」


 メレ・エトゥールは片眉をあげ、カイルを見つめた。


「アドリーを視察しながら、シルビアに似合うアドリーの貴石細工を探したりするのは、どうだろう?貴方の同行者にエトゥールに置き去りになっているアイリを入れれば、貴方の好感度上昇は間違いなしだ」

「悪くはない計画だ」

「でしょ?それに対して僕は交通手段として僕とウールヴェを提供するんだ」


 にこっとカイルは微笑む。


「その心は?」

「未来の義兄のご機嫌取り」

「露骨すぎる表現だ」

「最近、心配をかけすぎた代価だよ」

「自覚はあったのか」

「一応」


 メレ・エトゥールは苦笑した。ゆっくりと立ち上がった。


「では、出発前に付き合ってもらおうか?」

「どこに?」

「急に予定を変えたことで、荷の準備を終えた侍女達に怒られる役目が必要だ。むろん、それは私ではない」




 セオディア・メレ・エトゥールの予言通り、カイルは侍女達に、かなり怒られた。


 

いつも読んでいただきありがとうございます。

このあとは数話閑話をはさむ予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ