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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第15章 精霊の代価
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(47)手合せ⑨

 カイルはファーレンシアの助言を得て、セオディア・メレ・エトゥール宛に大量の報告書を書き上げて送った。メレ・エトゥールの機嫌をとるため、シルビアのウールヴェを借りるという小細工もした。


 すぐに返事がきたが、それはバラバラに届いた。


 手合せについてのエトゥール側の対応と、メレ・エトゥールがアドリー訪問時の同行予定者の人数などは重要な事柄だった。

 かなりの枚数に渡るその内容は、この短時間で書けるものではなかった。恐らくカイルが報告書を出す前に書かれていたに違いない。

 残りの返事は微妙に時間差があり、重要な指示から順にシルビアのウールヴェが運んできた。


 到着する手紙を読むたびに、カイルの肝は冷えた。


 カイルが見落としている事項はあまりにも多く、御前試合で粗相(そそう)をしていたに違いない。対外的には新しい辺境伯就任後の初の外交にあたることをカイルは見事に失念していた。


 おまけに、カイルが報告書で質問しなければ、メレ・エトゥールはカイルに教えないという鬼畜の行動にでた可能性すらあった。すでに用意されていた、と思われる数々の書がそれを物語っていた。

 これはセオディア・メレ・エトゥールの宣言に近かった。

 未来の義弟といえども、特別扱いしないぞ、と。



 この時点でカイルは敗北していた。



 セオディア・メレ・エトゥールへの報告を(おこた)るということは、メレ・エトゥールの地位を軽視している、と周囲に取られるということなのだ。

 それに対して、メレ・エトゥールは同等の報復を行うことができる。メレ・エトゥールはメレ・アイフェスの地位を軽視し、保護しない――。


「半分当たっていて、半分間違っていますわ」


 カイルの見解に対して、ファーレンシアは不思議な意見を述べた。


「当たっていることは?」

「兄は常に対等であることを意識しています。つまりメレ・アイフェスが優れた天上人であったとしても、隷属(れいぞく)する気はない、と」

「僕達にはそんなつもりはない」

「ええ、カイル様はそうでしょう。でも初代達はどうでしょうか?」

「――」


 カイルは書にもう一度、目を落とした。


「カイル様が馬鹿正直に全てを報告したから、兄も安心したことでしょう」

「隠しごとはするな、という助言はそれで?」

「元アドリー辺境伯はともかく、アードゥルはまだエトゥールで指名手配されている身です。過去に釘をさされませんでしたか?」

「確かにさされたけど」

「カイル様達のことは信頼していても、初代は違います。彼等は簡単にエトゥールを見捨て、消滅させるでしょう」


 今の段階では、その洞察(どうさつ)は正しい。カイルは溜息をついた。


「これだけの書をしたためるということは、カイル様に対する期待の表れでもありますね」

「例えば、僕が無能だったら?」

「私との婚約破棄とか」

「ええええええ?!!!」


 狼狽(うろた)えるカイルの反応にファーレンシアは笑い、カイルは揶揄(からか)われていることにようやく気づいた。取り繕うように咳払いをして、エトゥールの妹姫に続きをたずねた。


「それで、違う部分とは?」

「拗ねているだけです」

「はい?」

「カイル様が兄を頼らないから」

「僕がメレ・エトゥールを頼らない?いや、そんなことないよ?」

「そうでしょうか?もう少し相談しても、よろしいのでは?」

「メレ・エトゥールはただでさえ多忙なのに、これ以上僕のことで、手を煩わせるわけには行かないよ」

「それです」


 ファーレンシアはピシャリと言った。


「その遠慮がいけません」

「は?」

「兄は、未来の義弟に頼られる構図を望んでいるのです」

「そんな馬鹿な……」


 カイルは首を振った。

 セオディア・メレ・エトゥールに限って、ありえない。


「カイル様は自分に向けられる感情に対しては、本当に鈍いのですね」

「敏感に反応して痛い目にあった過去が多数あるからだよ」

「兄に対して、有効なご機嫌とりの手法がありましてよ」

「シルビアとの仲を取り持つとか?」

「まあ、それもありますが、シルビア様は残念なことに、順調に餌付けされています」

「餌付けって……」

「今、シルビア様は北方の菓子に夢中です」

「確かに餌付けされている……」


 カイルはファーレンシアの言葉を認めた。それから、ファーレンシアの知恵に頼る決意をした。


「メレ・エトゥールのご機嫌取りの方法を教えてくれないかな」

 

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