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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第15章 精霊の代価
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(43)手合せ⑧

「メレ・エトゥールに?」


 怪訝(けげん)そうにきくカイルの反応にシルビアは不思議そうな顔をした。


「彼が治める国ですから、彼にお伺いをたてるのは、当たり前じゃないですか?」

「いや、そうではなく、どうやってメレ・エトゥールに連絡をとっているのか、と」

「貴方と同じやり方ですよ」

「僕と同じ?」

「ウールヴェを飛ばしています」


 カイルは驚いた。

 シルビアがそこまでウールヴェを使いこなしているとは、思わなかったからだ。彼女の精神感応力(テレパス)は、強いわけではない。


「この距離を?!」

「なんで驚くんですか?貴方は非常識にも、宇宙を超えてウールヴェをとばしているでは、ありませんか」

「アドリーとエトゥールはかなり距離があるよ?!」

「別に問題はありませんでした。迷子になったことは、ありませんし、移動はほんの数分ですみます」

「伝言で?」

「いえ、手紙を持たせてます」

「手紙?」

「私のウールヴェは、貴方のトゥーラほど、語彙(ごい)が豊富ではないので」

「返事のやり取りは?」

「メレ・エトゥールのウールヴェが持ってきたり、精霊鷹が持ってきたり、私のウールヴェに託されたり……たまに、差し入れのお菓子をいただいたり」


 お菓子の話題の時だけシルビアの顔がほころぶのは、変わらなかった。

 ついでにメレ・エトゥールの外堀計画は、さらに進行中の気配をカイルは感じた。


「もしかして、今回も(こと)細かく報告を?」

「もちろんです」


 アッシュやミナリオ達も報告しているだろうし、それにファーレンシアが加わると、メレ・エトゥールは完全にアドリーの状況を把握しているに違いなかった。


 報告をしていないのは、カイルだけになる。


 カイルは冷や汗が、だらだらと流れた。

 メレ・エトゥールはカイルに対して何も言ってこないが、それは試されている可能性があった。いや、大いにあった。


「……僕もメレ・エトゥールへの報告書を書いた方がいいかなぁ?」

「むしろ、書いていない方にびっくりです」


 シルビアの言葉は、カイルをさらに追いつめた。


「時々、メレ・エトゥールとの手紙の内容が噛み合わないと感じたのは、貴方がいっさい報告していないからだったのですね」


 シルビアは吐息をもらした。


「拠点のことはともかく、今回はイーレ達の御前試合なのだから、エトゥールのしきたりなど、確認することは、山ほどありませんか?貴方は暫定的(ざんていてき)とは言え、アドリー辺境伯なのですから、責任者であり、アドリーの関係者に指示する立場でしょう?」

「僕のウールヴェが今、いないっ!」


 青ざめ、慌てふためくカイルをシルビアは落ちつかせた。


「私のウールヴェを貸しますし、とりあえず報告と御前試合(ごぜんじあい)の問合せの内容で手紙をしたためるのは、いかがです?ファーレンシア様に助言を求めるといいと思います」

「わかった!!」


 カイルは書庫をすごい勢いで飛び出していく。ファーレンシアを探しに行ったに違いない。


「そういえば、カイルはよく報告を怠って、ディム・トゥーラに怒られていたわ」


 イーレがその姿を見送り、ぼそりと言った。


「学習能力がない、成長がない――どちらだと思いますか?」

「両方だと思うわ。一度コテンパンに()したら、サイラスでさえ、マメに報告してくると言うのに」

「それは体罰ですか?」

「脳筋への教育手法よ」

「モノは言いようですね」

「カイルにも有効かしら?」

「間違いなく心的外傷(トラウマ)になりますし、彼は一応アドリー辺境伯の立場です。西の民の若長の嫁が、殴り飛ばすと国際問題になりますから、控えていただけると」

「あら、残念」

「でも、彼のやらかし具合があまりに酷すぎる場合は、ぜひお願いします」


 イーレは自らの主治医(しゅじい)を見上げた。


「私が本気で殴りとばしたら、けっこうな怪我(けが)になると思うけど?」

施療院(せりょういん)のベッドに余裕があるから大丈夫です」


 エトゥールの治癒師は妙な保証をした。


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