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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第15章 精霊の代価
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(45)手合せ⑦

「ハーレイ以外のお目付け役の適任者がいるなら、いつでも検討するから」


 カイルの言葉にエルネストは黙るしかなかった。カイル達は困難な状況から、最善の策を選択したにすぎない。それを頭では理解していても、心の整理は別物だった。


「あくまでも、西の地をまとめるため――そういうことなんだな?」

「うん」

「本当に大丈夫なんだな?」

「何を心配しているかによって、返答は変わるけど、イーレの精神的安定については最優先にしているから、大丈夫」

「わかった」

「ねえ、エトゥールの拠点はここからは飛べないの?」

「あそこは撤退命令が出たときに、閉じている」

「もう一度開けるには?」

「観測ステーションからのアプローチか、直接の起動に限る」

「直接の起動――つまりエトゥール地下深くに潜れってこと?」

「そうなる」

「貴方達のリーダーは、中央(セントラル)に戻ったの?」

「いや……」


 エルネストは皮肉めいた笑みを浮かべた。


「彼が一番最初に姿を消した。妻である精霊の姫巫女が亡くなると、その亡骸(なきがら)とともに彼は旅立ってしまった。彼は中央(セントラル)を捨て、世界を捨て、我々を捨てた。だが、原因は我々にあった。精霊の姫巫女など、一時的な関わりを持った地上人の一人に過ぎない。そう思っていたが、彼にとっては違ったんだ。それを誰も理解しようとしなかった」

「それって……」

「伝承にも残っているはずだ。初代のエトゥール王は妻を亡くして、彼女の精霊獣と共に最果ての地に向かい、その身と引き換えにエトゥールとエトゥール王家の加護を世界の番人に要求した。善なる王の望みを世界の番人は叶えた、と」

「世界の番人……」

「その伝承は、いつのまにか、民衆の間に広がっていた。もっとも、我々は彼がしばらくしたら戻ってくるぐらいに考えていた。エレン・アストライアーが死ぬまでは」


 エルネストは辛そうに視線を落とした。


「彼女の凄惨(せいさん)な死の事件で、初めて悟ったんだ。彼の戻るつもりのない旅路(たびじ)と、我々がいかに彼に依存(いぞん)していたか、を。彼はエレンが死亡しても、エド達が引き上げても姿を現さなかった」

「……ねぇ、その精霊の姫巫女の精霊獣って、どんな姿をしていた?」


 エルネストは笑った。


「君のウールヴェによく似ている。君の『ウールヴェの王』という表現でふと思い出したのは、それだ。例え、精霊の姫巫女の精霊獣と、縁がない存在だとしても、彼等がどうなったか消息は知っているはずだ。私がそのリードというウールヴェと話がしたいのは、そういう理由だ」






「ええええええええ?!」


 アドリーに戻って最初の仕事はイーレとシルビアの牧場計画の中止の報告だった。

 牧場計画の頓挫(とんざ)を告げると、イーレの失望は大きかったが、シルビアは理由に理解を示した。


「まあ、確かに猪やマンモスのそばでは、安まりませんね。暮らすのは無理かもしれません」

「……肉……」

「人里離れた場所と、脱走防止策を構築(こうちく)しないと、無理だ」

「普通の家畜から始めるのは、確かにいいかもしれませんね。西の民には、畜産の概念はないようですし、エトゥールも(ひつじ)山羊(やぎ)が中心ですもの」

(ひつじ)は毛や肉や皮が有効利用できるから古くから、利用されているんだろう」

「牛に該当する生物はいないのですか?」

「わからないな」

「ウールヴェを牛の大きさ程度にできればいいのですが」


 ぴくりとイーレが反応した。


「……そうよね、コントロールが効かないことが問題なら、コントロールできるように改変したらいいのよね」

「……まだ諦めてないのか」

「諦めないっ!」

「じゃあ、二人で飼育計画を立案して。エルネストがきっとチェックしてくれるよ」

「わかったっ!」

「この熱意は、いったいどこからくるんだ……」


 カイルはイーレの情熱の度合いに呆れた。


「何かに熱中できるとは、いいことです」

「それが肉でも?」

「肉だとしても。今、私達は地上の食文化の転換点を目撃しているかもしれません」

「それ、冗談だよね?」

「いえ、かなり本気です」


 シルビアは生真面目な表情のまま、告げた。


「畜産については、メレ・エトゥールの意見をきいてみましょう」


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