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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第15章 精霊の代価
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(44)手合せ⑥

「貴方だって、ウールヴェを持っているじゃないか。それで試してみればいいんだ」

「よく、知ってるな」


 驚いたようにエルネストは、カイルを見つめた。


「シルビアが貴方の小さな黒いウールヴェを目撃している」

「ほう」

「アードゥルの(あやつ)る四ツ目がウールヴェの()れの()てであることも知っている」

「――」


 再び驚いたようにエルネストはカイルを見た。


「よく、そこまで突き止めたもんだ。どうやって?」

「僕じゃない。僕のウールヴェが教えてくれたんだ」

「例の頭のいいウールヴェの王以外に、君のウールヴェも十分利口(りこう)ではないか」

「時にはすごい(おろ)かな行動もするけど、人の言葉を理解し、成長しているのは確かだよ」

「少々特殊だな。そこまで知恵を発達させるウールヴェなど過去に数例しかみていない」

「過去にはあったの?」

「伝承として残っているだろう?初代エトゥール王と彼に従う精霊獣達――」

「精霊獣って、やっぱりウールヴェなの?」

「精霊獣の定義をなんとしている?」


 カイルは考えこんだ。


知恵(ちえ)自我(じが)がある」

「それから?」

「人との対話が可能」

「まあ、特定の使役主(しえきぬし)に限られるが」

「姿を変えられる」


 エルネストは面白そうな顔をした。


「目撃したことがあるんだな」

「赤い精霊鷹が白いハヤブサに変化したんだ。皆、大パニックさ」


 エルネストは笑いを()らした。


「我々と同じ反応だ。それが発覚した時、幾晩(いくばん)、徹夜して議論したことか」

「……議論したんだ?」

「もちろんだ」

「結論は?」

「出なかった。ウールヴェという生物の正体について、君達が結論に達しているなら、ぜひ聞きたい」

「残念ながら。結論を聞きたいのは、僕の方だ」


 自分の影響を受けて進化している仮説は、カイルは話さなかった。


「そういえば、ハーレイは使役主(しえきぬし)以外の第三者と会話できるウールヴェを精霊獣とみなしていたな」

「そのようにまだ分類定義が定まっていない」

「そうなのか……」


 カイルは心の中でがっかりした。今後のトゥーラとの関係を構築する上での参考になりそうな情報はなかった。

 カイルは、ふと他にも気になったことがあることを思い出した。


「……アードゥルは僕との対話についてなんと言ってるの?」

「特に何も」

「関心はないのか……」

「逆だ。帰るたびに、根掘り葉掘り聞いてくる」

「え?」


 思い出したように、エルネストは笑いをかみ殺した。


「昔から彼は素直じゃない」

「僕との対話を拒絶(きょぜつ)しているわけではないってこと?」

「珍しいことに。君の行動に対して関心をもっている。まあ、目下の問題は、アードゥルにイーレの手合せの件をどう伝えるべきか、だ」

「…………ああ……」


 アードゥルの反応が確かに読めなかった。複製体(クローン)であるイーレの嫁取りに関して、彼はどう思うのだろう?


「一番、平和的な解決はイーレが勝利をおさめてくれることだが」

「いや、実は逆なんだよ」


 カイルが懺悔(ざんげ)をした。


「なんだって?」

「イーレが勝って、独身(フリー)になると、またわんさか、嫁取りの申し込みが舞い込んできて、振り出しに戻るんだ」

「――」


 エルネストはあっけにとられた。


「なぜ、イーレを西の地に放牧(ほうぼく)した?」

放牧(ほうぼく)――うん、放牧(ほうぼく)に近かったね。その点は深く反省しているよ。西の民の特性にも気づかなかったしね」

 

 少しカイルは遠い目をした。


「野生のウールヴェより(たち)が悪い」

「おっしゃる通りで」

「責任を取れ」

「僕はファーレンシアと正式婚約しているので、イーレと結婚できません」

「そういう意味じゃないっ!」

「じゃあ、どういう意味で?貴方がハーレイの代わりにイーレの支援追跡者(バックアップ)になってくれる?」

「――」

「今の状態じゃ、無理でしょう?他にいい提案があれば、いつでも受け入れるよ」


 カイルは深く頷きながら言った。

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