(13)王都
予定より時間はかかったが、サイラス達はようやくエトゥールにたどりついた。
王都はサイラスの想像より遥かにでかかった。
王都に入る手続きは全部リルがやってくれた。途中の街や村で語った身分――子供の商人見習いが初の買付のため護衛傭兵と王都に来たという設定だったらしい。サイラスはリルに言われた通り、エトゥール語がわからない東国人のふりをして、無言を貫き通した。
リルは商人がよく使う宿を覚えていた。二人はとりあえず宿をとると荷馬車を預けて城下を散策することにした。
「商人だと王都に店を持つことが夢なんだよ」
リルは楽しそうに説明する。確かに王都は魅力的な場所だった。
「リルも将来は店を持つのか?」
「うーん、店もいいけど、いろんなところにもいきたいなあ」
「そりゃいい」
「今、王都に異国の賢者が二人いるらしいよ?その人たちがすごくてねー、戦争に勝つように助言して、けが人も治して、なんと西の民まで説得しちゃったんだってぇ」
「……西の民?」
「西国のとても強い人達、エトゥールと仲が悪かったんだよ」
「……へぇ」
サイラスの反応はやや遅れたものになった。
戦争に加担して、けが人を治療した二人組に心当たりはあるが、それが噂になっているとは計算外だった。さらに西の民の説得とはどういうことだろうか。
「それは有名な話かい?」
「有名、有名、超有名。最近の話題はそればかりだよ」
「……」
「これって……影響を与える、どころか与えすぎてないか?」
『……言うな……頭が痛い……』
「その問題児と連絡は?」
『……応答はない』
「生きてるのかねぇ?」
『……だから、そういう不吉なことは言うな。生体反応は正常だ』
「シルビアは?」
『遠距離すぎる。彼女は精神感応者じゃないから通信機を介在しないとダメだ』
「サイラス、これからどうするの?」
「さて、どうしようかねぇ……」
王城の出入り口は当然警備が厳重だった。一介の商人が入れるレベルではない。
「これ正面から行ったら玉砕すると思うけど?」
『……まあ、そうだな……』
サイラスは考え込んだ。正攻法では無理、と彼は結論に達した。
「じゃあ、リル。王都の美味しいものでも食べに行こうか」
「え?いいの?」
「いいの、いいの。腹が減っては戦ができぬ、って言うんだよ」
「え?エトゥールと戦をするの?!」
サイラスは笑いながら歩き出した。
「シルビア様!!」
ファーレンシアがシルビアを探しにきた。
「シルビア様に客人がおとずれています」
「客人?」
シルビアに心当たりなどはない。
「客人が今、エトゥールにたどりついたと」
「それは、精霊が告げたのですか?」
「はい。カイル様を起こすことができる人とのことです」
「!」
ディム・トゥーラが事態に気づいて降下してきたのだろうか?
「ど、どこに?」
「街です」
なぜ街に?確定座標は精霊樹のそばのはずだ。何か変だった。だが、精霊が助言したのなら、その人物を探し出すべきだと、シルビアは本能的に感じた。
ファーレンシアはすでにら外出用の外套を手にしており、シルビアに渡した。
「……私もご一緒してもよろしいですか?」
「もちろん。一緒にさがしてください」
ファーレンシアが上空の赤い鷹を指さす。
――精霊鷹。
鷹は彼女達の歩調に合わせるかのようにゆっくりと羽ばたく。城から城下に降りていく。ファーレンシア達は護衛と共にそれを追いかけた。
「西の民の事件の時も、同じように導いてくれました」
ファーレンシアが早足で移動しながらシルビアに伝える。それは安心できる情報だ。
街の中心部の宿が密集するエリアにたどり着く。
やがて赤い鷹は一つの建物の屋根にとまった。それ以上、移動する気配がない。
「ここでしょうか?」
「そうみたいです」
建物の内部から、とてもいい匂いがしていた。
「私にはよくわかりませんが……これは食堂ですか?」
「食堂です。わりと城下で人気の店ですが……」と、護衛として同行したアイリも戸惑いを隠せないでいた。
なぜ食堂……。
「でも精霊がおっしゃるなら……間違いはないですね」
「はい」
ファーレンシアが頷く。
「先に安全を確認させてください」
アイリと護衛達が先に店に足を踏み入れる。それから店の中を確認し、ファーレンシア達に頷いてみせた。
シルビア達は店の中に入ったが、店員は近衛の紋章がはいった護衛達にぎょっとしたようだった。店はにぎわい混雑していた。
シルビアは店の中を見渡し、一番奥にいる長い黒髪を背中で束ねている男を見つけだした。
「サイラス⁈」
男は近づいてくる集団に食事の手をとめた。彼の連れなのか子供の方はびっくりしている。
「シルビア?よく、ここがわかったね?」
「教えてもらったので。話したいことがいっぱいあるのですが……なぜ食堂なのです?」
「お腹がすいたから……でも、突っ込むところ、そこ?」




